実はわたし、結婚してます〜番外編〜



わたしがスパイ!?



 自宅マンションに戻ると、どっと疲れが溢れます。慣れない仕事、そして慣れないスパイ活動……慣れないづくしでくたくたです。
 思わずソファに倒れこむと、一気に睡魔が襲ってきます。
 ああ、玲斗が帰宅する前にご飯を作ってしまわなきゃ、と思いつつも身体に重石でも乗っかっているんじゃないかというくらい重たくてなかなか起き上がることができません。
 そのうちにうつらうつら……少しだけ、ほんの少しだけ。そう思って瞳を閉じました。
 それにしても重い……。重いです。
 ずっしりと何かが圧し掛かったように重くて身体を起こすことができません。
 ああ、玲斗ごめんなさい。今日はご飯がまだ作れていないんです。
 玲斗……

「……玲斗!?」

 目の前にはなぜか玲斗の顔。しかもどアップです。

「なんだ、起きてるのか、つまらん」
「へ!?」

 つまらん、て何がですか?!

「い、いま、なんじ?」
「9時」
「いまかえってきたの?」
「ああ。出迎えがないと思ってたらソファで襲ってくれと言わんばかりに、胸元はだけさせて、大股開いて寝てるから、期待に応えてやろうかと」
「ええ!?」

 わたしってばそんなはしたない格好で寝てたんですか。なんてことでしょう。最悪です。お父さんお母さんこんな娘でごめんなさい。
 じたばたしているわたしに玲斗はニヤリ。
 うわー、この顔。話を逸らさなければ。

「玲斗、ご飯まだできてなくて」
「そうだろうと思って用意してある」
「うそ、玲斗が?」
「行きつけの店で作ってもらったやつだよ」
「あ、そっか」
「さて……」

 どうしようか?と言わんばかりに玲斗の視線がわたしに突き刺さります。この状態ではわたしからどうもこうもしようがないんですけどね。

「玲斗、あの」
「俺が風呂に入れてやるよ。妻はお疲れのようだからな」

 なんですか、このフッとイジワルそうな笑みは。しかもすでにブラウスのボタンが外されてるしっ。
 こういうところ玲斗ってば素早いというかなんというか、気づくと全裸にさせられてしまうんですよ。この手馴れた感じがすこーし切なくもあるんですけどね。

「お疲れなんだから当然動けないよな?」
「え、そ、そんなことはないよ。――うわっ」

 素っ裸にされて抱きかかえられ、つまりお姫様抱っこで、浴室へと連れて行かれます。
 玲斗、ものすごーく楽しそうです。そういう顔を見てしまうと憎めなくて、不覚にも愛おしく感じてしまったりしてしまうんですよね。
 逆らえない、というんじゃなくて、たぶんわたしの身体は逆らいたくないんです。いつの間にか、玲斗にされることのすべてを受け入れて、それを心地よく感じているのですから。
 浴室で、泡だらけにされて玲斗の大きな手のひらと器用な指先でに愛撫されるのも、湯気に包まれた浴槽でこれでもかというくらい舌を絡ませあうのも、身も心も満たされる思いでいっぱいになるのです。

 長い長い入浴の後、やっと食事を取ることができましたが、早々に終わらせ、再び玲斗に攫われるようにベッドへ連れて行かれます。
 緊張感のある一日を終えて、張り詰めていたものが玲斗に抱かれることで一気に解放されるんです。きっとそんなこと玲斗は知らないでしょうけど。
 何度も肌を合わせた後、玲斗がぽつりと耳元で囁きました。まどろむわたしの目を一気に覚ますようなそんな言葉を一言――。

「俺以外の男に抱かれたら、絶対にゆるさない」


   








   



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