実はわたし、結婚してます
最初はここで完結のつもりでしたが、シリーズ化したのでもう少しだけお二人の結婚生活を応援してください☆
6
あー、今何時だろう。
起きるのめんどくさいな〜。
朝ご飯作らなきゃ。
あれ、わたし昨日何時に寝たんだっけ?
何にも覚えてないや〜。
おぼろげにそんなことを考えていました。
ふいに自分の右手が何かと絡まっていることに気づいてふと目を覚ましました。
「玲斗?」
「何度も連絡した・・・」
「え?」
わたしの頭はまだ正常には動いていないようです。
わたしの手に指を絡ませているのは玲斗だったようです。
玲斗があまりにも悲しそうにわたしを見下ろしていることに驚きました。
あれ?
「え、やだ。今何時?」
昨夜の出来事をいきなり思い出してわたしは飛び起きました。
確か朝、気怠い身体を引きずるようにしてマンションまで戻ってきたのです。
少しだけ寝ようと思ってベッドに倒れ込んで・・・
「夜の8時すぎ」
玲斗の声にわたしは思わず身体をビクッとさせてしまいました。
玲斗が帰ってくる前にマンションを出ようと思っていたのです。
思いっきり夜まで寝てしまったようです。
「千穂」
「え?」
玲斗はわたしの身体を包み込むように抱きしめました。
昨夜とうってかわった玲斗の態度にわたしは戸惑いを隠せません。
一体どうしたというのでしょう。
「嫌われて・・・出て行ったかと思った」
「ええ?」
それはこっちのセリフです!
玲斗はわたしを嫌いになってあんな・・・
思わず昨夜のことを思い出して赤面してしまいます。
「千穂はあの男が好きなのかと思った」
「あの男?」
「元木とかいう・・・」
「元木さん?ただの同僚だけど・・・」
「親しそうに話してただろ」
「え、わたし迷惑だったけど・・・」
素直に応えたつもりが、どうやら玲斗にはいけなかったのでしょうか。
玲斗はまたしても怒った顔でわたしの頬に触れました。
「千穂はスキだらけなんだよ」
「スキ?」
「千穂は俺が嫌いか?」
「え?嫌いじゃないよ?」
「じゃあ好きなのか?」
「うん。好きだよ」
ついさっき気づいたばかりだけど。
「なんだよ。そういうこと早く言えよ」
「え?」
「千穂は、俺のことが好きだとか一度も言ってくれたことないだろ」
ああ、そういえば。
自分の口から自分の気持ちを言ったことは一度もないかもしれません。
だって、玲斗がわたしの気持ちなんて無視してしまうから。
言う暇すらなかったというか、それ以前に好きかどうかすらも自分では気づいていなかったのですから。
「玲斗こそ。どうしてわたしと結婚したの?」
「・・・は?」
「たくさん綺麗な彼女がいるのに、どうしてわたしと結婚したの?」
「・・・お前バカだろ」
「むっ」
どうせバカですよ。
おバカさんですよ。
「ほっぺた膨らませて怒るなんてガキみてぇ。ハハ」
「玲斗のバカ」
「バカにバカと言われたかねーよ」
玲斗はなんだか嬉しそうにそう言いました。
どうやら旦那サマのご機嫌は治ったようです。
結局なんだったのでしょう。
「玲斗、わたしのこと怒ってたんじゃないの?」
「怒ってたけど、もういい」
「じゃあ、わたしまだここにいてもいいの?」
「なに言ってんだ、お前。千穂の家はここしかないだろ」
「そうだけど」
「腹減ったな。なんか食いに出よーぜ」
「う、うん。ごめんなさい。今日作ってなくて」
玲斗はわたしの頭を軽くポンと叩きました。
そして顔を背けながらぼそっと気まずそうに尋ねてきました。
「身体、辛かったか?」
わたしの知っている、玲斗です。
意地悪の中に優しさのある、わたしの旦那サマ。
「も、平気。いっぱい寝たから」
そうして、わたしたちは玲斗の行きつけのお店に夕食を食べに出かけたのです。
で。
結局、玲斗はなんでわたしと結婚したのでしょうか。
その答えは聞けないまま。
いつの間にかあやふやになってしまったようです。
翌々日。
出勤した途端に、国府田さんから呼び出されました。
「玲斗ぼっちゃまが随分と落ち込んでたんですが、今朝の様子を見るとどうやら仲直りしたようですね?どうせまたぼっちゃまがひとりで怒ってご迷惑おかけしたんでしょう」
「えーっと。よくわからないんですけど、機嫌は直ったみたいです」
「千穂さん。ぼっちゃまはあなたが大事で仕方がないんですよ。どうか呆れないでくださいね」
「国府田さん。わたしが呆れることはないですよ?わたしが捨てられることはあるかもしれませんけど」
「千穂さん?」
「では、仕事に戻りますね」
そう。
玲斗がいつかわたしに飽きて、捨てられることはあるかもしれません。
でも、わたしは玲斗が好きですから。
その気持ちに気づいてしまった今は、少しでも長く、この生活が続くように努力していくことだけです。
とりあえず、わたしたちの秘密の結婚生活はもうしばらく続くみたいです。
END
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2008. 12 蒼乃 昊