実はわたし、結婚してます 〜夫の心、妻知らず〜







「ぼっちゃま、今年も忘年会シーズンがやってきましたね」
「国府田。会社ではぼっちゃまって言うなっていつも言ってるだろ!」
「まぁふたりだけの時はいいじゃないですか。私にとってはぼっちゃまはどんなに偉くなってもぼっちゃまですから」

ったく・・・国府田はいつもふたりになると俺を子ども扱いする。
いい加減年相応の扱いをしてもらいたいもんだ。
ただでさえ、頭が痛い季節だっていうのに。

忘年会。
こんなもの世の中から消えてしまえ。と何度思ったかわからない。
女共は酔った振りしてここぞとばかりにうようよとよってたかって鬱陶しいし、男共は男共で狙った女にモーションかけまくるし・・・あの千穂がまたターゲットにされるのは目に見えている。
まったくぼけーっと呑気な顔しやがって、あんなスキだらけで、餌食にされるってなんでわかんないんだ、アイツは。
イライラがピークに募るこの季節、俺はなんとか千穂の働く部署の飲み会に参加できないか予定を考えていた。

「そんなに千穂さんが心配なら専業主婦にでもなっていただけばよろしいのに」
「そんなことしたら・・・」

千穂のことだ。
家にいろつってもふらふら外に出やがって何するかわかったもんじゃない。
会社にいてくれた方が俺の目が届くし、何をしてるか、誰が千穂を狙ってるか筒抜けになるからよっぽど安心だ。

「千穂が働きたいって言ってんだから仕方ねーだろ」


俺はとりあえず国府田にそう言っておく。
事実、千穂は働くことが好きなようだし。

俺と千穂が結婚していることは社内だけでなく身内にも極秘にしている。
理由は簡単だ。
めんどくさい。
俺の実家は代々由緒ある家柄で、しきたりやらなんやらめんどくさいことが多い。その上、様々な行事やパーティなどに引っ張られるのが当然だ。
あんな場所に千穂を連れて行きたくもないし、千穂が好奇な目で見られるのは我慢できない。
だからこそ、千穂との結婚はそれは慎重に事を進めきた。
それなのに、そんな俺の苦労も知らず千穂のヤツはふらふらふらふらしやがって。
やっと千穂に群がる男どもの巣窟から今の部署に異動させたというのに、またしても千穂を狙う男がいるときたもんだ。
今日も千穂が飲みに誘われたなどという報告があってこのイライラはおさまらない。
千穂を飲み会に誘ったと言う元木って男は確か婚約者と結婚寸前でその婚約者にぞっこんではなかったのか。
あの部署ならば女性も多いし狙うヤツなどいないと思っていたのに。
あーイライラする。
だいたい、千穂は誰にでもニコニコしすぎなんだ。
俺は不機嫌MAXの状態で目の前のパソコンに向かっていた。



仕事を終えて家に帰ると、千穂の作ったと思われる生姜焼きの薫りが漂っている。
いつも有名シェフの作る横文字の料理に飽き飽きしていた俺は、千穂の作る数々の庶民料理にいつの間にか虜になってしまった。
中でも豚の生姜焼きは大好物だったりする。
千穂は料理が上手だ。
いろんな高級料理を食べてきた俺が言うのだから間違いはない。

「おかえりなさい。お疲れ様です」
「あ、いいにおいだな。今日は生姜焼き?」
「うん。この間食べたいって言ってたでしょ?」

ドアを開けて笑顔で迎えてくれる千穂に、あたかも今気づいたように言ってみる。
この間、久々にまた食べたい、と言ったのを覚えていたようだ。千穂にしてはなかなか妻らしくなってきたな、と満足な気分になる。

堅苦しいスーツからラフな部屋着に着替え、ダイニングルームへ入るとテーブルの上にはきっちりと夕食が整えられている。
食事をとりながら、俺は重要なことを思い出した。

「なあ、千穂」
「なに?」
「明日急に午前中休みがとれたんだ。だから千穂も有給とれよ」
「え、そんな急に?」
「ああ。大丈夫だろ。会社の方は処理済みだから」


普段なかなか休みが取れず、千穂をひとりで過ごさせることも多い。
なるべく週1は休みをとるようにはしているが、それにしても週休2日の千穂にとっては俺はかなり忙しい夫なのだ。
だから今日は必死で仕事をこなして会議も何もない明日の午前中は休めるように頑張ったわけだ。
はずなのに・・・。
なんだ、その微妙な表情は!
俺がせっかく休みをとってやったというのに・・・普通もっと喜ぶだろ?
それなのに・・・うわ、ため息までつきやがった!
くそ!
千穂のやつ・・・覚悟してろよ、今夜は絶対寝かせてなんかやらないから。


    




玲斗視点も・・・というコメントいただいたので書いてみました(〃∇〃)
イメージ崩れたらごめんなさい。







    



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