実はわたし、結婚してます
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玲斗は強引にわたしの腕を掴むと、無言でタクシーに押し込みました。
相当お怒りの様子です。
ものすごく怖いです。
「れ・・・玲斗?」
おそるおそる声をかけますが、玲斗は完全に無視。
何年も玲斗と一緒にいますが、こんなに怒った顔は初めてです。
どうしたらよいのでしょう。
怯えながらただ俯いて座っていることしかできませんでした。
止まったのは自宅マンションではなく、よく耳にする高級ホテルです。
玲斗は粗っぽくカードで支払いをすませるとそのままわたしをカバンをつかむかのようにして引っ張り出し、ずんずんと引っ張ってホテルのチェックインカウンターに向かいました。
カウンターでは少し慌てた様子で支配人らしき人が出てきて、そのままわたしたちを部屋まで案内してくれました。
しかし、なんてことでしょう。
玲斗とともに連れてこられたのは・・・いわゆるスイートルームとでも言うのでしょうか。
玲斗はあたかも当然、というように当たり前の顔をしてずかずかと部屋にのりこんでいきます。
呆然としているわたしを振り返り。
「さっさと来い」
一言です。
命令です。
わたしは急いで中に入りました。
支配人さんがいなくなると玲斗は上着を脱ぎ捨て、わたしの身体を軽々と持ち上げそのままベッドルームへと運びます。
ハイ、この状態は危険です。
「れ、玲斗・・・」
「うるさい」
完全に玲斗の怒りはMAX。
いつもと様子の違う玲斗に怯えるわたしはどうすることもできません。
ただ玲斗のなすがままに従うだけです。
「玲斗、待って・・・」
「妻を抱いてなにが悪い?」
冷たい声です。
その夜、玲斗は強引にわたしを抱きました。
痛みで悲鳴をあげても、
あまりのことで涙が零れても、
玲斗はやめてはくれませんでした。
玲斗はドSですが、本当にわたしが嫌がることを無理強いしたことはありません。
どんなにドSでも、その中に優しさはあるのです。
こんな風に・・・まるでレイプするかのように抱くことは初めて身体を許したその日から一度もありませんでした。
何度も何度も、わたしが気を失うまで、玲斗はわたしを解放してはくれませんでした。
目を覚ますと、広いベッドにはわたしひとり横たわっていました。
玲斗の姿はありません。
玲斗がいたであろう場所に手を伸ばしてみましたが、温もりすらありませんでした。
おそらく玲斗は仕事に行ったのでしょう。
玲斗の姿がなくてほっとしたのと同時に、あまりの空しさに再び涙がこぼれ落ちました。
どうしてこんなことになったのでしょう。
どうしてあんなに酷い抱き方をされてしまったのか、わたしにはさっぱりわかりません。
愛のないセックスというものを、わたしは初めて知った気がしました。
そうです。
玲斗はいつだって優しかったのです。
あの意地悪な中にある小さな優しさが、わたしは好きだったのです。
今頃、玲斗を好きなことに気づいてしまったわたしはどうしていいかわらかなくなりました。
玲斗は完全にわたしに冷めてしまったのかもしれません。
都合のいい女にすら、もうなれないのかもしれません。
わたしはもう、あの家に住むことすらできなくなるかもしれません。
悲しくて、ただ淋しくて・・・
うめることのできない心の穴に・・・
わたしは泣くことしかできませんでした。
泣くだけ泣いて、わたしはのろのろと痛みの残る身体を起こして、シャワールームに向かいました。
全面ガラス張りの広い浴室には大きな鏡があります。
そこにうつるわたしの身体にはところどころ赤紫色の斑点がありました。
思わず恥ずかしくなってしまいますが、あまりに貧相な身体に・・・玲斗もついに飽きてしまったんだな、と思ってしまいました。
当然です。
いつかは来る別れ。
玲斗の気まぐれで婚姻届にサインをさせられ、わたしたちは結婚ごっこをしていたのです。
誰かにこの結婚の事実が知られたくないのは、のちに別れても何の問題もなく過ごすためだからなのでしょう。
シャワーを浴びて、恥ずかしながらも誰もいないから、とバスローブを羽織って部屋に戻ります。
そこには新しい洋服が置いてありました。
どう見ても玲斗のものではないようで、サイズもわたしサイズの女性もの。
玲斗が残してくれた最後の優しさなのでしょう。
わたしは急いで服を着替えました。
そしてこういうスイートルームをチェックアウトする場合ってどうすればいいんだろう、と不安になります。
ただでさえ、ホテルになんてひとりで泊まったことがないのです。
こんな一般庶民にとっては大問題なのです。
とりあえず部屋のルームキーとなっているらしいキーカードを手にしてカバンを持って部屋をでました。
チェックアウトカンターでは特に何もなく、「またのご利用お待ちしております。」と優しく声をかけられ、こんなところに泊まるなんてもう二度とないと思います。なんて心の中で言ってしまいました。
公共の交通手段でなんとか自宅マンションに戻り、わたしはそのままベッドに倒れ込みました。
なんだかとっても疲れてしまったのです。
身体が言うことをききません。
少しだけ。
少しだけ眠ってから、荷物をまとめて出て行こう。
そう決心したのです。
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