実はわたし、結婚してます



母になる日





「う、うひゃぁぁぁぁ!」

や、やってしまいましたよ。
バサバサバサーと散っていく書類を呆然と見つめてしまいました。
最近、こういうドジはやっていなかったんですけど、妊娠中だから注意散漫になったってことでしょうか。
いえいえ、妊娠のせいにしてはいけませんよ。

わたしは落としてしまった書類を一枚一枚確認しながら拾っていきます。
すると・・・

「妊娠中なんだから無理しちゃダメよ?」

美しい手がわたしの視界に入りました。
ふと見上げると、思わず見とれてしまうほどの綺麗な女性が一緒に書類を拾ってくれているではありませんか。

「すみません!!あの、ありがとうございます!」
「いいのよ」

明らかに年上で、会社のお偉い様であろう綺麗な女性は、優しげに微笑んで書類をわたしに手渡してくれました。
な、なんて親切な方なんでしょう!
わたしはこんなに綺麗な人に助けられたことに、感激のあまりうるうるしてしまいました。

「今、何ヶ月なの?」
「あ、8ヶ月です」
「そう。そろそろ産休とって、のんびり過ごしてね」
「ありがとうございます。来週から産休をいただきます」
「小石川の秘書は大変でしょう?いつもとても感謝しているのよ。出産、頑張ってね」
「ハイ!本当にありがとうございます!」

う、うわー。本当に綺麗な人。それにものすごく優しいし。
玲斗のこともよく知ってるってことはやっぱり、会社のお偉い様ですよね。玲斗がお世話になってる方でしょうか。
あ!もしかして・・・玲斗の愛人さんのひとりとか!?
わたしと玲斗が結婚してるってことは秘密にされてるし、わたしの妊娠も、まさか玲斗の子どもだなんて誰も思ってませんからね・・・。
玲斗ってばあんなに綺麗な愛人さんがいながらなんでわたしみたいなのと結婚生活続けてるんでしょうか。
ホント意味不明ですよ・・・。
わたしはぶつぶつ言いながら、玲斗のオフィスに戻ります。

「千穂!」
「ハイ!」
「お前何やってんだよ」
「え、これ資料室からとってきただけだよ」
「そんなの俺が行ってくるつってんだろ。お前はここから一歩も出るな。って言ってるだろうが」
「だ、だって玲斗忙しそうだったし。さすがに会社の中を迷ったりしないよ!」
「そういうコトじゃないだろ!」

いきなりコレですよ。
一体玲斗ってばなんでいつもこんなに怒ってるんでしょうか。

「千穂、もうお前明日から産休とれば」
「な、なんでよっ!」
「家でじっとしてればいいんだよ」
「・・・じっとって・・・助産師さんだって適度な運動は必要って言ってたよ」
「お前、まさか産休に入ってもふらふら出歩くつもりじゃないだろうな」
「散歩くらいいくよ」
「はぁ?ふざけんなよ。だったらここでじっとしてろ」

なんなんですか。この玲斗のわけわかんない命令は!
ホント、意味不明です。
今日はなにか悪いことでもあったんでしょうか。
玲斗ってばカルシウムが足りないのかもしれません。
あ!今夜はカルシウム多めのメニューにしましょう!そうです。そうですよ!じゃないと玲斗ってばイライライライラしてますからね〜。
やっぱり玲斗の精神状態を支えるのも妻の役目!

カルシウムといったら、じゃことかひじきとか・・・ワカメとかですかね。
よし!今夜はカルシウムたっぷりメニューに決定です!



   









   



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