実はわたし、結婚してます
母になる日
2
「千穂。いいか。絶対にケータイを肌身離さずもってろよ。何かあったらすぐに連絡しろ。いいか。オレに連絡がつかなかったら必ず国府田に連絡しろ。わかったな。」
「うん。わかってるよ。」
「絶対だからな!」
わたしが産休に入ると、玲斗は毎日のようにそんなセリフを残して仕事へ出かけていきます。
玲斗ってば大げさなんじゃないの、って思ったりもしましたが、やっぱりこんな風に心配してもらえると嬉しいですね。
なんだかんだと言いつつも、玲斗はわたしの行動を制限したりはしませんし、好きなようにさせてくれています。
でも、さすがに後期に入ると、いつ何が起こるかわかりませんし・・・突然破水して・・・なんていう話を聞いたりするとわたしもドキドキしてしまいます。
外出するときは玲斗の言うように必ず携帯電話を持ち歩きます。1日に何度も玲斗からメールが入ったり電話が入ったりすること以外は穏やかな時間が流れていきます。
なんだかこんなにのんびりさせてもらっていいのか、という不安もありますが、赤ちゃんが生まれるとまともに寝られない、とか育児に追われてヘトヘトになるっていうので、今のうちに睡眠をたっぷりとって体調管理に気をつけてみたりしてます。
それに体重もあまり増やすわけにはいきませんからね!
わたしが部屋で妊婦体操をしていると、ピンポーンと来客の知らせが。またまた実家からの宅配便でしょうか・・・なんて思いつつ出てみると、モニターに写っているのはなんと・・・
「お、お姉ちゃん!!」
数年ぶりに会う姉の姿があるではありませんか!
「ど、ど、ど、どーしたの!?」
あまりに動揺して、言葉が上手く話せません。
『とりあえず、ココ開けて。』
「はい!」
どうしましょうどうしましょう!
わたしはどうしていいかわからなくなりました。
なぜに、こんな場所にお姉ちゃんがやってくるのでしょうか。
あ、やっぱり両親から聞いたからですよね。
わたしが結婚して、しかも妊娠までしちゃってるこの事実を!
もちろんいつかは知られてしまうでしょうけど、お姉ちゃんは・・・絶対に怒ってますよ。怒ってるに決まってるんです!
両親はなんとかなったとしても、いつもお姉ちゃんだけはなんともならないんです。
お姉ちゃんが海外暮らしであることをいいことに、わたしもなんとかこの結婚を隠し通せてきたところがあります。
お姉ちゃんが戸籍謄本とったりしてたのも、わたしの結婚前ですからね。
きっと黙ってたこと、怒ってますよね・・・。
だって結婚なんてそんな大事なことを話してなかったんですから。
でもでも、わたしだってですね・・・離婚するものとばかり思ってましたから、そんな先のことまで考えてなかったんですよ〜。
なんて言ったら、きっともっと怒るに違いありません。
ひえー、怖いです。
怖すぎです。
わたしはドキドキしながら、玄関で姉を出迎えました。
「ハロー、千穂。」
「は、はろー、お姉ちゃん。」
相変わらずモデルのような格好のお姉ちゃんが(モデルさんなんですけど)、遠慮もなく部屋へとあがりこんできたのであります。
「さすが小石川家の長男、素敵なマンションね。」
「・・・。」
なんだかすべて知っているような気がするのですが、気のせいではないですよね。
わたしは、というとびくびくしながら、お姉ちゃんの次の言葉を待つのでした。
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