実はわたし、結婚してます



妊婦さんの日常





なんだか緊張します。非常に緊張します。
なぜって?
そんなの当たり前です。玲斗にわたし・・・そして友人の愛子と恵美が並んで座っているのですから。

玲斗が予約してくれた旅館が花火大会で有名な土地のこれまた素晴らしいところでして、どうやったらこんな直前にこんなに素敵な旅館が予約できるんでしょう、と思ったけれど、これはまぁ、玲斗のバックグラウンドの力なんでしょうね。
あ、もちろん実際に予約してくださったのは国府田さんでしょうけど!
ホント、いつもいつも申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまいます。

お部屋の縁側に座ると真正面で花火が見える部屋ですからね。
誰にも邪魔されない空間でこんなにのんびり座って見れるなんて、わたし・・・生まれて初めてです。


数時間前、愛子と恵美は玲斗に初対面を果たしました。
わたしがどんな風に紹介しようかと、あれこれ考えていたにもかかわらず、玲斗ってば笑顔を浮かべてサラッと言っちゃったんですよ。

「はじめまして。千穂の夫の小石川玲斗と申します。愛子さんと恵美さんのお話はいつも妻から伺っております。」

そんな玲斗に愛子も恵美もポカーン!ですよ。
わたしだってポカーン!ですよ。
一体誰ですか、これ!って感じです。
ええ、まさしくわたしの実家に挨拶に行ったときと同じ状況です。
そして愛子も恵美もわたしの両親同様、玲斗の紳士ぶりにすっかり騙されているのです。
そして玲斗ってばなんて言ったと思います?

「妻は現在妊娠中なので、人ごみに連れていくのが心配で、こうやって宿を取らしていただきました」

妊娠のことまで玲斗が言っちゃいましたよ。
わたしは空いた口もふさがらない状態です!わたしがこれを告白するためにあんなに悩んでいたのがバカみたいじゃないですか!
そんな感じなので、とてつもなく愛子と恵美の反応が怖いところです。二人とも玲斗の前ではにこにこしてますが、今までわたしが黙ってたことには絶対怒っているはずですよ。

でも愛子と恵美に告げるときにはすでに離婚しているかもしれないなんて思っていたこともありましたが、いまだに離婚話も出てくることはなく、わたし・・・妊娠中です。
本当に予想していなかった展開です。

そんなことを頭で考えていると、最初の花火がドッカーンとあがりました。

うわー!
本当に真正面ですよ!
目の前にあがりましたよー!

「すごーい!!」
「きれーー!」

愛子と恵美も喜んでくれています。
そうですよ!今はとにかくこの花火を楽しまなければこの部屋をとってくれた国府田さん・・・(玲斗も)に悪いですからね。
って思ってたら、花火が途切れた瞬間、左隣に座ってた愛子に耳打ちされましたよ。

「千穂、今度詳しく聞くからね」
「はい・・・」

わたしも覚悟を決めなければなりません・・・。


花火を見ながら軽食を取って、わたし以外の皆様はお酒を片手にしています。
これってものすごい贅沢なことですよね。
きっと女だけならここで、きゃきゃー、わーわー言いながらガールズトークで盛り上がるところなんですが、玲斗がいるので、そういうことはできません。
あ、でも玲斗が混じったらまた面白くなるかもしれませんね。あとで呆れられそうですけど。

花火が終わると、愛子と恵美は軽く世間話をして、そそくさと自分たちの部屋へと戻っていきました。
なんだか、こわーい空気が漂っていたので、きっと次に会うときには質問攻めにされるんだろうな、とわたしはドキドキしながら手を振りました。



「玲斗、今日はありがとう。こんなのんびり花火が見れたのなんて初めてだよ」
「千穂。」
「え?」
「浴衣はだけてるぞ」
「あ、ほんとだ」
「まあ別にいいよ。どうせすぐ脱ぐんだし」
「・・・」

それって・・・やっぱり・・・そういうことですよね。
わたしたちはなんとなく隣の部屋に入ります。
布団がすでに二枚敷いてあります。

「千穂って浴衣似合うよな」
「え、そ、そうかな」

玲斗がそういうこと言ってくれるなんてそうそうありませんよ!
なんだかとても嬉しいです。

「家でも浴衣にしろよ」
「うん。浴衣のほうがお腹も苦しくないし、それもいいかも」

昔の人はみんなそうでしたものね。
でも体型とか体重とか気にしなくなりそうで怖いですよ。
体重は最高でも10キロ増におさえてくださいって言われてるのに。

玲斗にゆっくり抱きしめられながら、わたしは玲斗の腰に手をまわします。
だったら玲斗にも浴衣にしてほしいな、なんて言いませんけど。
玲斗だって浴衣姿ものすごーく似合うと思うんですよ。
やっぱり日本人だからですかね。
布団の上に座ると、玲斗がお腹に軽く触れました。

「少し目だってきたな」
「うん・・・あの・・・激しくできなくてごめんね」

妊娠前に比べると、全然違いますから。
やっぱりお腹のこと気遣ってくれてるんですよね。

「いいじゃん。しばらくは妊婦プレイで。そうそうできるもんじゃないし」
「な、なにその妊婦プレイって!」
「千穂が妊婦だから妊婦プレイだろ」

するりと、浴衣を脱がされ、玲斗の唇が首筋をすべります。
それだけでもうゾクゾクとしてきてしまいます。
花火を見て気分が高まっているせいもあるのかもしれません。

なんだか浴衣を着たままこんな風に絡み合うとちょっとえっちな気分になってしまいます。

そうして、わたしたちの花火大会の夜は更けていったのでありました。



あ、もちろん翌朝、愛子と恵美に次に会う約束をキッチリさせられたのは言うまでもありません。



   









   



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