実はわたし、結婚してます





妊婦さんの日常





ピンポーン!

それは麗らかな陽気の休日でした。
わたしがインターホンに出ると、宅配屋さんです。もしかしてまた実家の母から荷物がきたのかと、ドキドキしながら玄関に向かいます。
しかし、玲斗が急いでやってきて、俺が出る、と言い出すではありませんか!
こういう役目はいつもわたしなんですが、玲斗ってば一体どうしちゃったんでしょうか。

「な、なに・・!?」
なんだか次から次へとでっかいダンボールやら、変な物体が玄関に積まれていくではありませんか。

「玲斗一体何買ったの!?」
「必要なもの」
「へ・・!?」

そう、その物体の数々・・・というのは。

ベビーベッド、ベビー布団に、ハイローチェア。ベビーメリーに、ベビー用おもちゃ・・・

わたしはぽかーん!て感じでそれらを眺めてしまいましたよ。
そうです。
確かにこの前、玲斗と通販雑誌を眺めていましたよ。
そして、これいいよね、とか、こういうのかわいいね、なんて話、わたしが勝手にしてましたよ。
でも玲斗は興味なさそうにしてたので、わたしがしゃべるだけしゃべって終わったんですけどね。
それなのに。
なぜにそれらのものが、今届いているんでしょーか!?
わたし、別に雑誌にチェック入れたりしてたわけでもありません。

「玲斗・・・でもまだ5ヶ月入ったばかりだし。ちょっと早いんじゃ・・・」
あと半分妊婦生活残ってるんですよ、わたし。
性別だってまだ判明してないんですから。
「準備ってのは早めにするから準備って言うんだろ」
「そ、そうだけど・・・」

それにしても、みなさん準備を始めるのは7ヶ月くらいとか言いますよね〜。
玲斗ってば気が早すぎですよ。
それなのに、玲斗がひとりで勝手にベビーベッドを組み立て始めました。
わたしも手伝おうとしたのですが、「邪魔だ!」と一蹴されてしまいました。
仕方がないので、わたしは部屋のお掃除でもすることにしたんですが、ちょっとでも重たいものを持とうとすると玲斗に怒られます。
安定期に入ったし、運動だって多少はしたほうがいいんですからね!
それにお医者さんだって部屋の掃除はいい運動になりますよ〜っておっしゃってましたから!
もう、ホント玲斗ってば一体何を考えているんでしょうね。

「千穂!オマエなにやってんだよっ」

ほらまた!きましたよ、なんだか小舅にいじめられてる気分なんですけど。

「なにって、窓拭きだよ」

見てわからないんでしょうか。

「そんなのハウスキーパーにでも頼めばいいだろ。オマエは座ってろよ。さっきからうろうろうろうろしやがって!」
「自分の家の窓拭きくらい自分でするのが普通でしょー」
「千穂は妊婦だろーが!」
「妊婦だってみんな掃除くらいやってるよ!」
「何ムキになってんだよ」
「れ、玲斗がごちゃごちゃ言うからでしょー!?」
「俺は、オマエに座ってろって言ってんだよ」
「暇なんだもん!」
「この間、山ほど本を買ってたじゃねーか」
「あ!そういえばそうだった!」

国府田さんが車を出してくれて買い物に行ったときに、本屋さんでたくさん本を買ってしまったんですよね〜。
だって手で持って帰ると、また玲斗に重たいもの持つなって怒られてしまいますから。
それにしてもなんだか上手くやりこまれてしまった気がするのはわたしだけでしょうか。
やっぱり玲斗には適わないんでしょうね、わたし。

「でもちょっとは運動したほうがいいって先生言ってたし」
「あとで散歩に出ればいいだけの話だ」
「一緒に?」
「当たり前だろ」

玲斗、やっぱり最近優しいですよね〜。
このところ、休みの日は必ずウォーキングに付き合ってくれるんですよね。
実は玲斗、歩くの好きだったんでしょうか!?
やたらと楽しそうに歩いているのはそのせいなんでしょうかね。
でも、散歩が趣味だなんて聞いたことありませんでしたけど。
いやー、お金持ちでも意外な趣味があったもんですね。

気がつくと、玲斗はベビーベッドの組み立てを終わらせていて、まだだいぶ先にならないと使うことのないであろうおもちゃやら、メリーやらをベッドの柵内に入れていました。

その姿に、わたしは思わず見とれてしまいました。

お父さん・・・?

「千穂・・・?」
「え?」
「どうかしたのか」
「あ、ううん」

今、玲斗の背中がお父さんぽく見えました。
あ、歳をとってきたとかそういうのではなくて・・・なんていうんですかね、父親のオーラを感じてしまったというか。
男の人は父親になるには時間がかかるって誰かが言っていました。
わたし自身もまだまだ母親になる実感なんてないんですけども、なんだか不思議な気持ちです。

一歩一歩、わたしたちは親への道のりを歩いていくのかもしれません。



   









   



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