実はわたし、結婚してます





妊婦さんの日常





こんにちは。小石川千穂、26歳、人妻です。
ただいまわたし、妊娠4ヶ月に入りました。
父親?それはもちろん玲斗です。
だって玲斗以外の男性なんて、知りませんから!

玲斗の私設秘書として働き始めて・・・思うことは、玲斗ってやっぱりすごい!ってことです。
いつも偉そうにしてますが、仕事となると別人のようですよ。
仕事をしている姿を見ると本当にかっこいいというか、惚れ直すというか、ドキドキしてしまいます。
なぜ玲斗が女性社員たちから人気があるのか、わかりますよね。
そんな玲斗の妻となり、こうやって子どもを宿すことまでできたわたし、なんて幸せなんでしょう。

それに玲斗ってばどんなに仕事が忙しくても妊婦健診には必ず一緒についてきてくれるのです。最近は腹部エコーに変わったせいか、かなり熱心なんですよね。
エコー写真もパソコンにとりこんで、なにやらアルバムらしきものを作っているみたいなんです。
まさか玲斗がこんなにも子どもが欲しかったなんて思いもしてなかったんですが、もしかして玲斗は意外と子ども好きなんでしょうか。
ただ最近なんだか玲斗からのスキンシップが少なくて・・・玲斗の興味関心を独り占めしてるお腹の赤ちゃんに嫉妬してしまったりするんですよね。
って、わたし贅沢すぎですね!
玲斗に触れられたい、なんて。
妊娠発覚してから玲斗と・・・その・・夜の夫婦生活から遠ざかってしまってるせいで、こんなおかしなこと考えてしまうんですよ、きっと。

「千穂、何見てんだよ」
「え?」
「そんな目で見るな。」
「ご、ごめんなさい!仕事します」
「・・・千穂、家に帰ったら覚えとけよ」
「え?」

その会話の真相は、夜ベッドの中で明らかになるのです。
ふたりで帰宅し、ご飯を食べ、交代でお風呂に入り・・・同じベッドに横になります。

「玲斗?」

玲斗がいつにもなく身体を密着させてきます。
「千穂が悪いんだからな」
「なにが?」
「昼間誘うからだろ」
「昼間・・・って」
「つーかこっちは限界なんだ」

それはつまり・・その。

「安定期に入ったし、いいよな」
「う、うん・・・」

そういうことですよね。
もしかして思いが通じたのでしょうか。
お誘いがあったことが嬉しく感じてしまって・・・だってやっぱり妊娠すると女として見られていないのか、とか不安になっていたのは確かで、でも玲斗も・・・もしかして同じ気持ちだったのでしょうか?
いやいや、まさか玲斗に限って!
愛人さんもいらっしゃることですし・・・
でも、仕事でも家でもほとんど一緒にいるので、玲斗が愛人さんのところへ行っていたらすぐにわかります。
玲斗はわたしが妊娠してからずっとわたしの傍にいてくれてるのです。

「玲斗・・・あの・・・」
「激しくはしない」
「う、うん・・・」

ありがとう。なんて照れくさくていえません。
でも、わたしは玲斗の腕に抱かれながら、小さく耳元でささやきました。

お腹を気遣いながら、ゆっくりで、優しい玲斗の愛撫を受けながら、わたしはもしかして玲斗に愛されてるんじゃないかという錯覚に陥ります。
今だけ。
今だけ錯覚に陥ってもいいような気になります。
だっていつも激しい営みを求めてくる玲斗が、こんなにも優しいなんて、わたしは不安な心がどんどんと満たされていくように思えました。
久しぶりに感じる玲斗の肌の感触を堪能しながら、わたしは玲斗を受け入れました。
少し怖いような気もしたけれど、妊婦健診のときに言われたお医者さんの「順調なので夜の夫婦生活は問題ないですよ。パパとママが仲良くすることはお腹の赤ちゃんにとっても素敵なことですよ。」という言葉が頭をよぎりました。
恥ずかしいような、照れくさいような気持ちで、玲斗の顔を眺めると、玲斗のキスが降りかかります。

「玲斗・・・」
啄ばむようなキスに、物足りなさを感じて玲斗を求めてしまい、玲斗は何も言わず応じてくれます。
ただそれが嬉しくて、幸せで・・・そうして夜は少しずつ更けていったのです。


翌朝、なんだかあまりにも恥ずかしい気持ちになってしまって、お互い口数の少ないまま出勤したのでした。




   









   



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