実はわたし、結婚してます 〜ふたりの距離〜









「ええーーーーーーーーーーー!!!」

その事実を知って、驚かない人はいないでしょう。
小石川玲斗。
そうです。いくら鈍いわたしだって名前くらいは聞いたことがあります。
なんていったって・・・わたしの働く会社の、社長の息子!
つまり御曹司ってやつではないですか!!
今は営業部長をしている、なんていう話でしたが、情報管理課でひそひそと仕事をしているわたしには別世界のお方です!
そんなお方がなぜ・・・。

なぜわたしのお弁当を求めてやってきていたんでしょうか・・・。

そしてなぜわたしはこんなところに連れてこられてしまったのでしょうか・・・。



「千穂さん、あのお部屋ではセキュリティーの心配もありますからね。司馬奈々さんと千穂さんの関係性を知って、千穂さんが借金返済のために大変な思いをしている、と知ったぼっちゃまは千穂さんの身を案じられたのですよ。一応上司ですからね。司馬奈々さんの件の責任もありますしね。ですから、突然のことで驚かれたと思いますが、今回はぼっちゃまの言うとおりになさってくださいね」
「・・でも・・・」

国府田さん、という方は親切にそうわたしにこっそり教えてくれましたが、やはり申し訳ありません。
だって、何も知らなかったとはいえ、彼女を信用してお金をかしてしまったのはわたしの責任ですから。
それに確かに立場は上の人ですが、わたしの部署の直属の上司でもありません。
ここまでのことをしてもらう理由がないのです。
すべては、わたしの問題なのですから。


そう、司馬奈々・・・ちゃんとは同期入社。入社式で席がたまたま隣になったことで仲良くなりました。可愛くて誰からも好かれる奈々ちゃんは地味なわたしとも仲良くしてくれて、休日も一緒に遊びに行ったり、長電話をしたり、わたしは親友だと思っていたのです。
学生時代からの友人はいるけれど、同じ会社で仲が良い友人ができるってまた別のことで、わたしは辛いことがあっても愚痴を言い合ったり、励ましてもらったりして乗り越えていくことができたわけです。
大切な友達でした。
でも、奈々ちゃんは彼氏ができてから少し変わってしまったのです。
でもそれは仕方のないことだし、奈々ちゃんが彼氏さんの都合に合わせ、わたしよりも彼氏さんを優先するのも当たり前のことだし、少し寂しくはあったけど、でも奈々ちゃんが幸せならそれでいいと思っていました。
でも、ある日、せっぱ詰まった顔をして、奈々ちゃんはやってきました。
そしてどうしてもお金が必要になったから、迷惑はかけないから、すぐに返すからお金をかして欲しいと、頼まれたのです。
本当に困った様子の奈々ちゃんを見て、わたしは承諾してしまったのです。
事情を何も聞かずに。
そしてわたしはありったけの貯金とそして借金をして、お金を渡しました。

けれど、奈々ちゃんはその後連絡が取れなくなってしまいました。

会社は無断欠勤が続いてしばらくしたあと辞表が届いたとか。
奥さんのいる上司と不倫関係になり駆け落ちをしたという、面白おかしい噂がしばらく続いていました。
わたしは真実を知ることもなく、借金だけを抱え込んでしまうことになってしまったのです。
でも後悔はしていません。
奈々ちゃんにも奈々ちゃんの事情があったのでしょうし、逃げられて、真実を知ることもできませんでしたけど、わたし自身が決めたことなのです。わたしの責任なのです。
だから、少しでも節約しようと安いアパートに引っ越し、借金を返していく覚悟をしたのですから。



マンション?億ション?てやつでしょうか。
エレベーターで連れて来られた最上階のワンフロア全部この男の部屋らしいです。一体いくつ部屋があるんだ、って思ってしまうほどです。
さすが御曹司。
規模が違いますね〜。


「この部屋、自由に使っていいから」
「え?こ、こんなに広い部屋・・・いいですいいです。ホントわたし帰りますから!」
「あそこはもう引き払わせる」
「ええ?困ります!そんなの!」
「別に、俺ここにはたまにしか帰ってこないし、余ってるからいいんだよ。もったいないだろ」

もったいない。
もったいない、という言葉に弱いわたし・・・。

「え、じゃぁ、こ、小石川さんは一体どちらに・・・?」
「玲斗でいいよ。俺は本宅とか別宅とかいろいろあるからな」

本宅とか別宅!
すごいです!聞いたことのないようなお言葉ですよ!
そういえば女性社員が言ってました!数々の女性を囲ってるとかなんとか!
ということはこんな風に女性をいろんな場所に住まわせているのでしょうか!さすがはお金持ち、女遊びもきわめているのですね!
あ、わたしは彼女でもなんでもないただの迷惑な居候でしかありませんけどー。

居候・・・・・・

そうですよね。
あのアパートは時々恐怖を感じていたのは確かです。下着を盗まれたこともあり、それ以来は外に洗濯物も干せなくなってしまいました。
どことなく視線を感じる日もありましたし、気のせいかもしれませんが・・・。

ならば、彼がここへくるときは気持ちよく過ごせるように、ぴっかぴかに磨いて、おいしい手料理でも・・・って彼のようなおぼっちゃまがわたしの手料理なんかで満足してくれるはずはありませんね。
でも、お礼はしなければ気が済みません!
とりあえず借金返済まではこちらでお世話になり、その間に新しい住まいを見つけて、引っ越せばいいのです。
それまではわたしは家政婦ですよ!家政婦やりましょう!

「れ、玲斗さん・・」
「呼び捨てでいい」
「え、でも」
「俺がいいつってんの」
「は、はい・・」

ど、どうしてこのお方こんなに怖いんでしょうね。
時々穏やかな表情になるときは、ちょぴりステキなんですけどね。

「あの・・・お世話になります」
「ああ」
「なにかご要望があればなんでもしますから!」
「なんでも?」
「はい!なんでもやります!掃除、洗濯、家事育児!どれも得意ですから!」
「・・・」

な、なんなのでしょう。この間、は。

「身体の相手は?」
「え?」
「俺の夜の相手もしてくれるのか?」
「・・・え、えと・・・」
「なんでもしてくれるんだろ?しかも育児って子どもまで産むつもりか?」
「え、いや。そ、それは・・・ちょっと」

なんでも、ってそういうつもりじゃなかったんですけど。
家事育児!ってのも勢いというか。ほら隠し子とかいそうですからね!

それに、わたしにも夢がありましてですね・・・。
やっぱり初めては好きな人がいいというかなんというか・・。

「冗談だよ。俺がお前に発情するわけないだろ」
「・・・」

そ、そうですよね。
わたしみたいな貧相な女でなくて、もっとゴージャスでスタイル抜群の女性たち、たくさんいらっしゃいますからね!!

でも、なんなのでしょう。

心がチクチクします。
どうせ、わたしは女としては見られていないってことがちょっとショックなのかもしれません。



こうして、わたしたちの奇妙な同居生活が、始まったのです。


    




千穂ちゃん前向きというか・・・素直というか・・なんというか・・
だから騙され・・・(゜O゜)











    



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