ふたりのクリスマス〜玲斗〜






「ぼっちゃま。今年も24日のパーティには参加するように、とお姉さま方から強くお願いされましたよ。」
「あー、めんどくせーな。」
クリスマスなんてキリストの誕生日だろ?
なんでまたそんな日にぎゃーぎゃー騒ぐのかまったく理解できない。
「千穂さんと過ごせないのは残念ですね。」
「千穂とは毎晩一緒に過ごしてるだろ。」
「・・・。ぼっちゃま・・・。」
国府田があきれた様に無言で俺の顔を見つめる。
一体なんなんだよ。
みんなしてクリスマスクリスマスって。
一体なにがそんなにめでたいんだ!?
小石川家では毎年のように行われるクリスマスパーティ。
なんだかよく知らないやつらも混じって、飲んで騒いで踊って・・・子どもの頃から参加しているが楽しいと思ったことなど一度もない。
しかも最近はやたらと女にからまれる。
これもまたあのおせっかいババァたちの仕業に違いないが。
だいたい、母親がキャリアウーマンなのに、なんで姉が結婚至上主義なのかがさっぱりわからない。

その夜、千穂が寄り添ってきて、
「ね、玲斗・・・。」
甘い声で話しかけてくるから思わず反応してしまった。
「なんだよ。」
「えーっと、クリスマスイブって・・・。」
「ああ?」
クリスマスイブ?
その言葉に思いっきり嫌な顔をしたに違いない。
毎年毎年、この季節になってこの言葉を聞くたびにイライラするからだ。
千穂の口からだってこんな言葉は聴きたくない。
もちろん千穂に悪気はないのはわかっているが、幼い頃から嫌な行事のひとつなので仕方がない。
「千穂。」
「は、はい?」
「もう寝るぞ。」
「ね、寝るって・・まだ8時くらいだし・・お風呂もまだ・・。」
「いいんだよ。どうせ後でシャワー浴びるんだから。」
「う・・・。」
ったく俺の気持ちをやわらげてくれるのは千穂の身体だけだ。


翌日、俺が千穂の働くフロアに偵察に行ったときだった。
「今年のクリスマス、井原さん誘うんだろ?」
「ああ。」
「最近彼女色っぽくなってきたよな。」
「だね。さすがに都会になじんできたのかな。」
「かもね。入社した頃は田舎娘丸出しって感じだったのに。女って変わるよなぁ。」
そんな立ち話してるくらいならさっさと仕事しやがれ。
イライラしながらそんな会話に耳をすましてしまう。それもこれもあの千穂のせいだ。
色っぽい。
確かにそのとおりだ。
何があったか知らないが、女らしくなって、やたらと積極的になってきた。
だから色っぽいなんて言われるんだ、あの馬鹿。
男に色気振りまくなってあれほど言っても聞きやしない。
それにしても何だ?
クリスマスに千穂を誘う?
もしかして千穂は毎年誰かに誘われて一緒に過ごしてるのか?
俺が実家のパーティに強制的に参加させられてるというのに、あいつは俺に隠れて浮気か!?
そういえば、千穂が俺にクリスマスの予定を聞いてきたこともなければ誘ってきたこともない。
一緒に過ごしたいとも言われたことがない。
まさか、昨夜のあれは・・・俺への誘いだったのか!?
そんなことを考えているとだんだんイライラしてきて、俺はそのまま自分の仕事に戻った。
しかし、やはり一度考え出すと気になって気になって仕方がなかった。

 
 















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