たいせつなこと






「お母さん!ケーキもう一個食べてもいい?!」
「あ、あたしもあたしもー!」
「いいけど、あれだけチキン食べて、ピザ食べて・・・よく食べれるわね」
「ベツバラだもーん!」

小学生になった子どもたちと過ごすクリスマス。
我が家では当たり前になってしまった賑やかなクリスマスが、慌しく終わろうとしているとき、わたしはキッチンで洗い物に追われていた。

夫の克哉は日曜だというのに、仕事に出かけている。
世の中が不景気といわれるようになってから、克哉の職場も随分苦しくなったようで、今日の休日出勤もおそらくお給料は出ないだろうと思った。

イブイブも、クリスマスイブも、そしてクリスマスも・・・家族そろって過ごすことができなかった。
昨夜、克哉は疲れた顔をして帰ってきて、そのまま倒れこむようにして眠ってしまったから、プレゼントを子どもたちの枕元に置いたのはわたしひとり。
子どもたちが幼い頃は、ふたりでこっそりサンタになりきったこともあったのに。
そして「毎年こうやってふたりでサンタになろう。」なんて言い合ったこともあったのに。
時の流れは残酷なものだ、と感じてしまう。

こうやって夫婦というのは時間とともに気持ちもすれ違っていくものなのかもしれない。
そんなことを思いながら、子どもたちにお風呂に入るように告げ、わたしは散らかった部屋を見渡した。
片付けても、片付けても、見事なまでに散らかしてくれる子どもたちは、イタズラすることも多いけど、無邪気にまっすぐに育ってくれている。
それこそがとても幸せなことなのに。

どうしてわたしはこんなにも虚無感に襲われてしまうんだろう。

すると玄関の方で音が聞こえた。

「お帰りなさい」

わたしの言葉に頷くよりも先に、リビングに入ってきた夫は目を丸くして、そして苦笑した。

「すごいな、これは」
「ごめんね、帰ってくるまでには片付けようと思ったんだけど」
「いや、いかに楽しかったか、が伝わってくるよ。残念ながら俺は参加できなかったけど」
「あ、料理はちゃんと置いてあるのよ」
「ありがとう。お腹がぺこぺこだよ」
「なんだか久しぶりね、こんな時間に帰ってこれるの」
「そうだね。かなり忙しかったし、忘年会やらなんだと飲み会も続いたしね。子どもたちは風呂?俺も乱入してくるよ」
「うん。そうしてあげて」

克哉が浴室に向かうと、わたしは軽くため息をついて部屋の片づけを始めた。
すぐに、賑やかな笑い声がリビングまで響いてきたけれど、そのことすらもなんだか素直に喜びを感じることはできない。

わたしは一体何を期待しているんだろう。
父親として母親として過ごすことに決して不満はないのに。一体なにがこんなにもわたしを虚しくさせるのだろう。

克哉はそのまま子どもたちを寝かせるべく子ども部屋へ一緒に行ってしまった。

「食事は?」って聞くと、「子どもたちが寝てから食べるよ」
というので、わたしは片づけを優先させ、それから夫の食事をダイニングテーブルに用意した。
多めに買っていたとはいえ、すべて残り物ばかりだ。
チキンは見栄えがいいように子どもたちには使わない少し高級なブランドもののお皿に乗せ、スープ、サラダ、ピザもなるべく残り物と見えないように盛り付けをした。
そうしていると、克哉が「疲れた〜。」と言ってリビングに戻ってきた。

「子どもたちは勝手に寝るわよ。付き合わなくてもよかったのに」
「いや、子どもとのスキンシップも大切だしさ、それに今夜はさっさと寝てもらいたくてね」
「え?」

「ワイン買ってきたんだ。一緒に少し飲まないか?」

思わず固まってしまった。















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