サクラの木


第4話 学園祭

(2)

 学園祭当日は、朝早く登校して、出店の手伝いに追われながら、筝曲部の後輩たちのクラスのお店や、出し物を見に行ったり、その筝曲部の演奏も午前、午後の2回あるので、その準備もしたりと大忙しだった。

「沢井先輩〜、すっごく緊張するんですけど」

 壇上横の控えで、今年筝曲部に入部してくれた1年生が不安そうな声で話しかけてきた。1年生にとってみたら今回の学園祭が初舞台となる。
 わたしは自分が1年生だった頃を思い出して、にっこり微笑んだ。

「コンクールとかじゃないんだし、失敗しても大丈夫」
「そうそう、気軽に楽しめばいいの」

 隣からつぐみが明るく口を挟んでくる。
 部活を引退したといっても、それは形だけで、部員数の少ない筝曲部では、わたしたち3年生も学園祭に参加している。毎年3年生はそんな感じでけっこう最後まで部に関わっていたりする。だからというか、本当に部員はみんな先輩後輩なく仲が良くて、先生や茶道部を巻き込んでお茶会なんかもよく開いていた。

「つぐみ、その浴衣かわいいね。買ったの?」
「あら、ありがと。夏にね、うふふ」

 その反応にさては彼氏と夏休みにその浴衣を着て花火大会にでも行ったのかな、と思ってしまう。
 いいなー。
 ちょっぴり羨ましく思うけれど、誰かとそんな風にデートをしている自分はあまり想像できなかった。
 樋口先輩のことも、好きだったけれど、やっぱりどこか違う。デートがしたかったわけじゃなく、隣を歩きたかったわけでもなく、だったら、わたしは何がしたかったのだろう。

「そういえば琴音って、経理もやるんだよね」
「うん」
「最後に売り上げとか計算するんでしょ?超大変じゃん」
「でも、誰もやりたがらないし、ま、いいかと思って」
「どうせまた、山ちゃんか誰かに頼まれたんでしょ」
「うん」
「でも、あたし琴音のそういうとこ好きよ。つぐみ様が手伝ってさしあげましょう」
「あはは、お願いいたします」

 そんなことを話していると、学園祭実行委員の2年生がわたしたちに向かって、

「筝曲部のみなさん、準備お願いしまーす」

 と叫んだ。


 さくら さくら やよいの空は
 見わたす限り 匂いぞ出ずる
 いざや いざや 見にゆかん  
                        『さくら』より


 この時期に浴衣を着て『さくら』の演奏をするのも微妙だけれど、一番知名度が高いし、毎年の恒例の曲だ。その後も2曲披露して幕が下りた。

   



   



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