ふたりのクリスマス〜千穂〜







千穂、今年のクリスマスイブは残業せずに早く家に帰れよ。」
「え?」
それは突然のことでした。
玲斗がマンションに帰ってくるなりそう言ってきたのです。
「まさかどこか出かける気じゃないだろうな。」
「え、まさか。なんにも予定はないけど・・・ど、どうしたの?」
「別に。俺も早く帰るつもりだから。飯作って待っとけよ。」
「う、うん。」

一体どういうことでしょうか。
まったくわけがわからないわたしでしたが、とにかく今年は玲斗と一緒にクリスマスイブを過ごすことができるようです!
わたしの心は時間が経つにつれて躍るような気持ちになっていました。
だって、人生初の出来事です。
好きな人と過ごすイブなんて!
俺様玲斗ですから甘いイブ・・・にはならないと思いますけど!
わたしはひっそりとイブの日のメニューを考えました。
仕事があるので手の込んだ料理はできません。
けれど、やっぱり食卓には豪華な料理でいっぱいにしたいですよね。
チキンにケーキに・・・そしてワイン。
前日の夜から準備していけばなんとかなるかもしれません。
その日からわたしはなんだかやる気がむんむんと出てきて、上司もびっくりなほどのスピードで仕事をしていたようです。
自分でもなんだか不思議なくらいわくわくしてどきどきしてしまうのです。
これって恋する乙女って感じでしょうか!?



「井原さん、なんだかうれしそうだね。いいことでもあった?」
「え、そうですか?」
わたし、にやにやしてたのでしょうか!恥ずかしい!
給湯室なので誰もこないと思ってたのが間違いだったようです。
隣の課の主任さんにバッチリ見られてしまったようです。
「井原さんて彼氏いないよね?」
「えーっと、いないですけど。」
夫はいても彼氏はいませんからねぇ。
「じゃあクリスマスイブはあいてる?」
「イブ・・・ですか!?」
も、もしかしてわたし誘われているのでしょうか。
「あの、すみません。イブは家族で過ごすんです。」
これは本当のことです。
玲斗は夫であり家族ですからね!
わたし、うそはついてませんよ、うそは!
「そっか。残念だな。じゃあ今度食事にでもいこうよ。」
「そ、そうですね。」
わたしはどうにかこの話題から逃げようと、さっさとお茶の準備して給湯室を後にしました。

そうですよ。こんなところまた誰かに見られたらまたへんな噂されて玲斗に誤解されて怒られちゃいますからね。
もう過ちは繰り返しませんよ、わたし。
なんたって今年のクリスマスは玲斗と過ごせるんですから!
わたしは気合いを入れて仕事に励みました。
しかし家に帰っていつものように食事を済ませ、お風呂に入ってベッドに入ると、玲斗が思わぬことを口にしたのです。



「お前、今日クリスマス誘われてただろ。」
「な、な、なんでそれを・・・。」
「俺の情報網をなめるなよ。千穂に関することならなんでも知ってる。」
・・・。
な、なんでも?
玲斗ってまさかストーカーですか!
「誘われたけど断ったよ?」
「知ってるよ。」
「怒ってる?」
「別に。千穂、毎年クリスマスは誰と過ごしてたんだよ。」
「え?ひとりだけど?」
「嘘つけ。」
「嘘じゃないよっ。だって仕事とかあったし。」
「毎年ああやって誘われてたのか?」
「ええ!?初めてだよ、あんなの。誘ってくれた人なんていないし。」
「ふーん。」
「なんか怒ってる・・・。」
「怒ってねーよ。ただお前、一度も俺と過ごしたいなんて言ったことないよな。」
「そ、そうだっけ?」
だってそんなこと言えるはずありません。
わたしが玲斗にそんなお願い・・・怖くてできませんから!
それに実は去年まで玲斗のことがこんなに好きだったなんて自分でも気づいてなかったですからね・・・。
わたしは思わず隣に横たわる玲斗の腕に自分の腕を絡めました。
玲斗が嫌がりはしないかといつもヒヤヒヤしてしまうのですが、玲斗は別にどうってこともなくそのままにしてくれます。
なぜだか自分の気持ちに気づいてからは玲斗の温もりがほしくてほしくてたまらなくなってしまうのです。
なんでこんなに玲斗のぬくもりに安心できるのでしょうか。
わたしにとって玲斗はもうなくてなならない存在の人のようです。
いつか別れがやってきたとき、わたしはすんなり笑顔で別れることなどできるのでしょうか。
時々そんな不安がやってきたりもしますが、今はこの温もりを少しだけ独り占めしたいのです。

そんなことを考えながら・・・うとうと、としかけたときでした。
わたしの身体は玲斗の重みを感じました。
玲斗の力強い腕に抱きしめられているのがわかりました。
「千穂、ほしいか?」
「ん・・・。」
玲斗の問いかけにわたしはあやふやな意識の中で答えました。
わたしは玲斗に抱かれるのです。
そうされるのを待っていたかのように、わたしの身体は玲斗に反応してしまうのです。
















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