ふたりのクリスマス〜千穂〜







「あー、イブまでに早く彼氏作りたい!」
「あんた確か去年もそんなこと言ってたじゃん。」
「そうだけどさー。」

昼休みの女子トイレはかなり混み合っているのです。
女性の多いフロアということもあるし、メイク直しをする女性が多いですからね。
なので少し早めにきたのですが、やっぱり何人かの女性社員たちが鏡の前でお話をしていました。
しかもこれはちょっと苦手なクリスマスな話題です。

「あ、どうぞ〜。」
「すみません。」
わたしは、ささっと手を洗わせてもらいます。
最近は手洗い用とは別に化粧室も用意されているところも増えていますが、うちの社内はないんですよね。
「ね、井原さんは?やっぱりクリスマスは彼氏と過ごすんですか?」
「え、わ、わたし?」
手を洗っているところで、いきなりそんな話をふられては思わず動揺してしまうではないですか。
確かに社内ではこの時期クリスマスの話題が多いんですけども。
「特に予定はないんですけど・・・。」
とりあえずこんな風に答えることが精一杯なのです。
だって夫はいても彼氏はいないですし、クリスマスの予定なんて本当になにもないのですから。
「えー?井原さんを誘いたがってる男性社員、けっこういますよ?」
「あ・・・そ、そうなんですか?」
そんなお世辞はいらないですよ〜。
わたしはなんとか笑ってその場を後にします。
これ以上話をするのは危険すぎます!
ぽろっと結婚してます・・・なんて言ってしまいそうですから。
玲斗は「結婚してる」ことくらい大丈夫って言ってましたが、やっぱりそんなこと言ってしまえば突っ込んで聞かれるのはわかりきってますから・・・できれば知られないほうがいいと思うんですよねぇ。
それにしてもやっぱり、みんなクリスマスといえば恋人と過ごしたいんですよね。
当たり前ですが!
わたしだって憧れてましたもの〜。恋人と過ごす甘いクリスマスイブ。
マンガとか小説とか読むたびにうっとりしちゃったりなんかしちゃって!
ま、そんなロマンティックな出来事には一度もめぐり合うことなく結婚してしまったので、もう無理なんですけどね。
そういえば結婚してからクリスマスイブは毎年ひとり・・・。
ひとり!?
確かにイブといえども日本ですから休日にならない限り当たり前のように仕事がありますからね。なんだかんだと仕事して家に帰って普通に過ごしてきたような・・・。
夫婦なのですから、一緒に過ごしてもおかしくはないはずなんですが・・・。
毎年クリスマスイブは玲斗は外泊していて・・・帰ってこないんですよね。
無断外泊なんて当たり前だったのであまり気にしてはいなかったのですが、クリスマスイブに外泊ってやっぱり・・・愛人さんでしょうか〜。
なんだか玲斗への気持ちに気づいてから、いろんなことにショックを受けてしまってるわたしがいるのです。
結婚もして妻になって・・・一緒に暮らしてるのに贅沢な悩みなんですけどね。

「井原さーん。これコピーお願いしてもいいかな。」
「あ、はい!」
うわー、なんてことでしょう。
ぼーっとしてたらいつの間にか時間が!
自分の仕事が全然進んでないじゃないですか!
もしかして今日も残業になっちゃうかもしれません。
わたしは慌ててコピー機に向かいました。



その夜、ふと玲斗に聞いてみました。
「ね、玲斗・・・。」
「なんだよ。」
「えーっと、クリスマスイブって・・・。」
「ああ?」
うわ。
その声が、その表情が・・・あまりにも怖くて思わず顔をそらしてしまいました。
ものすごく機嫌が悪いようです。
相当です。
わたし、なにか変なこと言ったでしょうか?
いえいえ、さっきまで普通にわたしのご飯を食べて・・・(おいしいとは言ってくれませんでしたけど)普通に過ごしていたのです。
このタイミングでクリスマスの話なんてちょっと無理のようです。

「千穂。」
「は、はい?」
「もう寝るぞ。」
「ね、寝るって・・まだ8時くらいだし・・お風呂もまだ・・。」
「いいんだよ。どうせ後でシャワー浴びるんだから。」
「う・・・。」

えー、こ、今夜もわたしは玲斗に翻弄されそうです。

 
 






遅くなりました(>_<)










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