実はわたし、結婚してます
ストロベリーキス
2
「玲斗、おかえりなさい。」
「ああ。悠斗寝てんの?」
「うん。さっき。」
「そうか。」
いつものように出迎えると、玲斗は少しお疲れ気味でした。そうなんです、最近仕事が大変そうで、きっと早く帰ってくるために無理してくれているんでしょうけど、、見ているこっちも辛くなってしまうんですよね。
わたしにも手伝えることがあればいいんですけど・・・。
今のわたしには笑顔で玲斗を出迎えて、おいしい手料理を振舞うことくらいしかできないのです。
「千穂さん、明日はぼっちゃまをちょっとお早いお迎えに参りますので、大変でしょうけど、お願いしますね。」
「はい、わかりました。国府田さん、いつもありがとうございます。あのこれ、少しなんですけどよかったらもらってください。」
「おや、よろしいのですか?」
「はい。実家から届いたんです。」
「はい、ではありがたくいただきます。」
はー、やっぱり国府田さんて紳士ですよね。この笑顔は素敵すぎです。奥様がうらやましいですよ。
それに比べて玲斗のムスッとした顔、なんとかなりませんかね。送ってくれた国府田さんにお礼のひとつも言わず、さっさと中に入っちゃいましたよ。
わたしは国府田さんを見送ると玄関を閉じました。
「うおっ、なんっじゃこれ!!」
ダイニングの方で変な叫び声が聞こえてきます。
「千穂、なんだよこれ!」
「え?見てのとおりイチゴのフルコース。」
うふふふ。玲斗のこんな驚き顔久しぶりですよ。作戦大成功!
テーブルの上にはイチゴサラダに、イチゴの冷静スープ(いちごジュースともいう)、イチゴの果汁を使ったイチゴパン(もちろんイチゴジャム付き)に、彩りにイチゴをのせたペペロンチーノ、イチゴのヨーグルトと、玲斗のお母さんからもらったイチゴのケーキ。
さぁ、どうだ、どうだー!
「一体なにがどうなったんだよ。」
「違うの。それがね・・・。」
今日見たイチゴの夢から始まったイチゴデーのはじまりを玲斗に話しました。
「ふーん。それでなぜかイチゴ三昧になったんだな。」
「そうなの。すごいよね。」
「俺も昨日夢見たぞ。」
「そうなの?どんな?ってうわ!!な、なに?」
いきなり玲斗が立ち上がって、わたしに顔を近づけてきます。
「んんーーーー!!」
唇を重ねられ、わたしは全く抵抗できなくなりました。
「正夢になった。しかもイチゴ味。」
「え、えーーーーー!!」
なんですかそれー!
さっぱり意味がわからないんですけどー!
何食わぬ顔して玲斗は再びイチゴ料理を食べ始めました。その姿にもやもやしながらもこんなイチゴ三昧な食事はめったにできないと思って、わたしも思う存分堪能しました。
「千穂っておもしろいよな。」
「え、なにが。」
「いや、イチゴが大量に届いたからって、デザートにすることはあってもイチゴ料理にすることないだろ。」
「だってー、玲斗が喜ぶかなと思って。」
それにデザートなら、ユリアさんがくれたケーキがあったんですもの。
「千穂が食べたかっただけだろ。」
「そ、そんなこと・・・。」
それはそうなんですけど。
「俺を喜ばせたかったら・・・。」
「なになに?」
「自分で考えていろいろ試してみろよ。」
「えー、なにそれ。」
にやっとイジワルそうな笑みを浮かべる玲斗の顔を見て、いつもの玲斗に戻って嬉しく思うのです。
それにしても、玲斗を喜ばせたかったら・・・一体どうすればいいのでしょう。玲斗が考えてることなんてそれでなくてもサッパリわからないのに、自分で考えていろいろ試せって・・・ものすごく難題な気がするんですけど・・・。
世の中の奥様たちはみんなどうやって旦那サマを喜ばせているのでしょう。
そんなことをぼんやり考えながら、ユリアさんのくれたケーキをゆっくり味わって食べるのでした。
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