実はわたし、結婚してます
夜の闘い
2
翌日いつもより早めに帰宅すると、悠斗はリビングに移動させてきているベビーベッドの上ですやすやと眠っていた。
千穂の姿が見当たらないということは、おそらく悠斗が寝ている間に、と急いで入浴をしているのだろうと思って浴室へいくと、案の定シャワーの音が聞こえてきた。
チャンスだ。
このチャンスを逃す手はない。
このまま俺の一緒に入り、千穂を襲ってしまえばいいのだ。
俺は急いでスーツを脱いだ。
その時、ケータイの着信音が静まり返ったリビングに響き渡ったのだ。
「やべえ!!」
と思ったときにはすでに時遅し。
悠斗の泣き声が一瞬でリビングを包み込んでしまった。
最悪だ。
誰だ、こんなタイミングで電話をかけてくるやつは!
自宅に帰ってまで電話なんか出るわけないだろ。
俺は怒りマックスだったが、そんな顔で悠斗を抱き上げればますます激しく泣かれるのはわかりきっているため、なんとか心を静める努力を心がける。
「きゃ〜〜〜。」
そこへ千穂が裸同然で現れた。おそらく悠斗の泣き声が聞こえ慌ててあがってきたに違いない。
「あ、玲斗、帰ってたんだ。」
悠斗を抱っこしている俺を見た千穂には安堵の表情が浮かぶ。
どうでもいいけど、さっさと服を着ろよ。
水がしたたる髪に、うっすらと紅く染まった頬がますます千穂を色っぽく見せていた。
くそ。
電話さえなければ、俺はこの千穂を・・・
「ごめんね、玲斗。すぐに夕食の準備するから、先にお風呂入ってもらっていい?」
飯よりも風呂よりもなによりも千穂が欲しかったが、さすがに父親となった今はそんなこと到底無理だった。
俺は悠斗をパジャマをきた千穂に預けると、おとなしく千穂の言うことに従った。
複雑な心境だった。
子どもができたことは素直に嬉しく感じるし、今の生活に不満があるわけでもない。
けれど、俺だって男だ。
愛する女が目の前にいて、抱きたくても抱けないというこの状況、なんと表現していいのだろうか。
なんとかしてふたりきりになろうと、悠斗を誰かに預けることを千穂に伝えたこともあったが、千穂は絶対にいやだと言って聞かない。出産してからやたらと母性が強くなったらしい。
一体どうすればいいんだ。
風呂の中で、俺は真剣に悩んでいた。
風呂からあがり、千穂の作った手料理を口にする。
うまいと思う。
千穂でなければ俺の妻など務まらないと思う。
他の女で性欲を満たすなんてこと、絶対にできないだろう。
食後に、俺は悠斗をあやしながら、千穂が読んでいただろう育児雑誌を手に取った。パラパラとめくっていると、興味深い記事が載っていた。
【産後、夜の夫婦生活を充実させるために】
夢中で読んでいると千穂が片づけを終えて覗き込んできた。
俺は千穂の反応を見ようと顔を上げると、真っ赤な顔をした千穂が、言葉なく立っている。
おそらく千穂もこのページを読んだに違いない。
「千穂。」
「は、は、は、はい。」
明らかに動揺している。
そんな千穂が俺の心を揺さぶる。
「寝るぞ。」
「う、うん。」
俺たちはベッドに横になった。
悠斗がなかなか眠りにつかないため、千穂と俺とで添い寝をすることにした。
ふたりで寝かしつけをすれば悠斗もすぐに寝てくれるはずだ。そうしたら悠斗をベビーベッドに移動させ・・・
その後は夫婦の時間。
よし、完璧な作戦。
のはずだった。
それなのに、どーして目覚めると朝が来ているんだ!!!
俺たちは三人仲良く川の字で爆睡してしまっていたらしい・・・。
そうして俺の闘いはまだまだ続く・・・
夜の闘いEND