実はわたし、結婚してます



夜の闘い




今日こそ俺は、定時であがって、千穂の作った飯を食って、さっさと悠斗を寝かしつけて、千穂を抱く。
そう心に決め、たまりにたまっている仕事を片っ端から片付けていった。もちろん昼休みなんてナシに決まっている。
千穂との夜の時間を確保するためなら昼飯なんて抜いたところでどうってことない。

千穂が出産してからはや3ヶ月が過ぎようとしているが、いまだ夜の夫婦生活を再開させることができずにいる。
少し落ち着いたら時間もできるだろうと呑気に構えていたのがいけなかった。そんなことをしているうちにどんどん時間は過ぎ、いつの間にかもう春先だ。

千穂の色っぽい瞳で見つめられるたびにこっちはもう我慢の限界だというのに、千穂のやつベッドに横になったらさっさと寝てしまう。いや、俺も寝てしまうことが多いからいけないのだが。
それにしてもだ。
このままじゃ本当にセックスレス夫婦の仲間入りだ。
俺はかなり焦り始めていた。

「ぼっちゃま、N社の方が本日、打ち合わせをかねて夕食を一緒にどうかとご連絡が来ましたが。」
「今日は無理だ。」

俺の今日こそ早く帰るぞオーラを感じ取ったのか、国府田も、それ以降夜の誘いは全部断りを入れてくれたようだった。

しかし、俺が退社しようとしたそのとき、社内でトラブルが発生。処理を手伝うハメになってしまった。
まるで見えない何かに俺と千穂の間を邪魔されている気分になって、俺はますます気分が悪くなった。
後処理を終え、同情する国府田の運転で自宅に戻ると、千穂は相変わらず笑顔で迎えてくれる。
しかしその顔は明らかに疲労困憊していて、どうしても千穂を無理やり抱くことはできなかった。

「千穂?」

一緒にベッドに入ったかと思うとすぐに千穂の寝息が聞こえてきた。
声をかけてももう返事はない。

ああ、今夜も俺の欲求は満たされることはなかった。








   



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