実はわたし、結婚してます〜番外編〜



わたしがスパイ!?




「玲斗はごはん食べたの?」
「ああ、軽く。今日はもうさっさと寝たい」

 そりゃそうですよね。玲斗が大変なのはこれからですから。言われたことをハイハイ聞いて仕事をこなすだけのわたしとは違う立場の人です。
 疲れきっている玲斗に、何かしてあげたいと思うのですが、結局のところわたしにできることなんて何もないんです。

「千穂、来いよ」
「え。お酒臭いかも」
「全部脱げば?」
「はい!?」
「いいじゃん、脱げよ。全部脱いで俺の抱き枕になれ」

 な、なにを言ってるんでしょうか、この旦那様は。

「朝シャワー浴びればいいし。俺は抱き枕が欲しい。さっさと来い」

 はいはい。どうせわたしは玲斗に逆らえないのです。玲斗の望むことをして玲斗がゆっくり眠れるなら、そうしますよ。
 そう決意を固め、服を脱いでいくと、玲斗がじーっと見つめています。

「たまにはいいな、こういうのも」

 下着をとるのを一瞬ためらっていると、全部だ全部、なんて言われてしまいます。
 確かに一緒に入浴して何度も明るいところで裸を晒しているのは事実ですけれど、やっぱりこういう状況って恥ずかしいです。
 でも玲斗が裸体抱き枕で満足してくれるなら、これも妻の役目です。

「あ、そうだ。玲斗、わたしマッサージしてあげるよ」
「は?」
「マッサージ!だって玲斗疲れてるんでしょ?そりゃプロにはかなわないけど、昔お父さんの肩たたきとかよくやってたし」
「千穂、お前、何言って……」

 わたしの提案に驚きを隠せない玲斗は呆然としています。けれどもそんなことおかまいなしです。疲れた旦那様のため、わたしが一肌脱ぎますよ!って服は全部脱いじゃいましたけどね。

「ほら、玲斗うつ伏せになって!」

 わたしは強引に玲斗をうつ伏せにして、馬乗りになります。

「ちょっ、待て、千穂!お前何考えてるんだ?」
「何って、玲斗に気持ちよくなってもらいたいし」
「ば、ばかっ。女がそんなこと言うもんじゃないだろ!」
「へ?なんで?」

 なぜか焦った様子でもぞもぞ動く玲斗をわたしはしっかりと両腿で押さえつけます。わたしは素っ裸ですけど、玲斗は服着てるし、うつ伏せになってくれてたら裸を見られることもないですからね。これが仰向けなら恥ずかしいことこの上ないんですが。

「ほら、玲斗じっとしてて」
「いや、だから……うおっ!」

 指に力を込めて、ツボだと思われる場所を押さえつけました。そうそう、こんな感じですよ。
 肩から腰にかけて入念にマッサージをしていくと、玲斗も気持ちがいいのか動かなくなり、言葉のひとつも発しなくなりました。もしかして疲れて寝てしまったのでしょうか、なんて思いながらも続けていると、千穂、と呼ぶ小さな声が聞こえました。

「どうしたの?もしかして痛かった?」
「いや。――――もっと」
「もっと?了解……って、わっ」

 いきなり玲斗が身を起こし、腰に手を回されたかと思うとあっという間に、玲斗とわたしの場所が逆になっていました。
 違うのはわたしがうつ伏せではなく仰向けになっていることくらいで、その上に玲斗が馬乗りになっています。もしかして今度は玲斗がマッサージしてくれるとか?なんて甘い期待をしてしまったのは一瞬。

「もっと気持ちいいことがしたい」

 それって、もしかしなくても。

「千穂がマッサージしてくれたおかげで、かなり楽になったからな」
「ほんと?」
「ああ、だから礼をしてやるよ」
「……」

 見下ろす玲斗の視線があまりにも真っ直ぐで、しかも口元が薄笑いしています。
 結局こうなるんですね。

 そしていつものお決まりな展開に突入するのでございます。


   




   



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