実はわたし、結婚してます 〜夫の心、妻知らず〜







「あッ・・・れい・・と」

千穂が我を忘れて俺の名前を口にする。
その声がたまらなく俺を興奮させるのを、千穂はわかってるだろうか。
千穂は俺だけのものだ。
俺の前以外でこんな姿をさらすことは絶対に許さない。
それなのに千穂は他の男にヘラヘラ笑いやがって・・・!
お前は俺の妻になったんだ。
俺にだけ笑っていればいいんだ。
俺にだけ・・・
愛してると・・・

千穂は、俺を好きだとか愛してるという言葉を一度も言ったことはない。
それでも、俺がやることに関して嫌がることもなかったし、いつでも側にいてくれた。
だから、俺は、千穂は俺のことを好きでいてくれるのだと勝手に思っていた。
婚姻届を差し出したときも、別に何も言わずサインしてくれた。
それが千穂の気持ちだと思っていたのに。
本当は違ったのだろうか。
他に好きな男がいたんじゃないだろうか。

俺はそんな不安をかき消すかのように夢中で千穂を抱いた。
千穂だって、俺を感じているはずだ。
俺がこんなにも感じているように。
気がつくと、千穂はぐったりとして半分意識がなくなっていた。
ああ、もっと優しくしようといつも思っているのに。
千穂相手では感情のコントロールができない。

俺は千穂を抱きしめた。
細くもなく太くもない、俺が抱きしめるのにちょうど良い心地よさと温もりの千穂の身体は、こんなにも俺の心を満たしてくれる。


「千穂?起きてる?」
「ん・・・?うん」

俺は千穂の長い髪を手で優しく梳きながら言った。

「今日、飲み会誘われてただろ」
「え、うん。でも言われたとおりいつも断ってるよ」


当たり前だ。
酔わされてどこかに連れ込まれでもしたらどうするんだよ。
だから門限だって作ってるってのに。

「多いのか、誘われること」
「え、そうでもないよ?うちの部署、定期的に飲み会があるから・・・」
「ふーん」


やっぱりな。
そんな部署に異動させたのは俺の責任だ。

「今度誘われたら、結婚してるって言っとけよ」
「え!?」


そろそろ限界なのかもしれない。
結婚していることを隠し続けるのは。
たとえこれが千穂を守る方法だとしても、堂々と結婚してると言った方が少なくとも千穂に寄ってくる男たちは排除できる。
だが、千穂にとっては大きな負担になることは確かだ。
周りからいろいろ言われることになるだろう。
仕事だって続けさせてやれないだろう。
この結婚を周囲に言うということは、千穂から自由を奪うことだ。

「い、いいの?言っちゃっても」
「別に相手が誰か言わなきゃわかんねーだろ」
「そ、そっか」

「千穂」
「はい?」
「お前は一生俺のものだ」

こんなセリフ言わせたのはこの世でお前だけなんだぞ、千穂。
本当にわかってるのか・・・。

俺はもう一度千穂に覆い被さった。
今夜は寝かせないと決めていたのだから。


   








    



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