実はわたし、結婚してます



小石川家の妻




うわーうわーうわーすごいですよ!このおうち!
これが本当に家なんですか!豪邸ですよ、お城ですよ。宮殿ですよ。
玲斗ってばこんな素敵なおうちがありながら、毎日あのマンションに帰ってきてたんですかね!
いえいえあのマンションもわたしにとってみたらものすごい豪華なお部屋には違いないんですが、それでも比べ物になりません。

わたしがポカーンとして見とれていると、玲斗はスタスタと歩いていってしまいます。

「玲斗、待って!」

まったく玲斗ってば冷たいですよ。
さっきからムスッとしてるし、口ひとつ開かないし。
やっぱりわたしを家族に紹介するなんてイヤなのかもしれません。
そうですよね。玲斗はきっとこの先離婚するつもりなら、わたしを家族に紹介する意味がありませんもの。
その辺がわたしにはわからないところでもあります。
玲斗は一体何を考えているのか。

「玲斗様、お帰りなさいませ」

扉のところで使用人と思われる人たちに一斉に頭をさげられ、わたしはびくっとしてしまいました。
こ、こわすぎです、ここ。
とりあえずわたしは玲斗の後ろをついて歩き、頭を下げられるたびに、わたしも頭を下げました。
絶対ここ、わたしみたいなのが来ていいところじゃないですよ〜。改めて玲斗との距離を感じてしまって、わたしは完全に萎縮してしまいます。
玲斗には何度も堂々としてろと言われましたけど、堂々となんて絶対にできませんよ。招かざる客とはまさしくわたしのことです。
どうしましょう〜。とドキドキしていると、わたしは玲斗にとある部屋に押し込まれてしまいました。

「ちょっと、玲斗・・・待って・・・」

という言葉など完全に無視され、わたしが部屋の中で目の当たりにしたのは一斉にわたしの方へと視線を向けるたくさんの目でした。

ひ、ひえええええ。

広い客間と思われる場所には豪奢なソファがいくつかあり、そこに腰掛けている方々もそれは豪華な顔ぶれに違いなかったのです。

「あら、千穂さん、よくいらしてくれたわね。緊張しなくていいのよ。ほら座って座って」
「あ、あの・・・」

すぐに声をかけてくれたのはユリアさんでした。
けれど、わたしの心臓はバクバクと高鳴っていて、ユリアさんの存在すら安心材料にはならなかったのです。
その状況を察してか、わたしの胸に抱かれている悠斗がぐずりはじめました。

「ゆ、悠斗・・・」

わたしが必死であやしている姿を呆然と見つめる人たちの前で、玲斗は相変わらず不機嫌な声でやっと言葉を発したのです。



   







   



inserted by FC2 system