実はわたし、結婚してます



小石川家の妻




あー、どきどきします。
今日はですね、ついについについに、玲斗のご家族のいらっしゃる小石川本邸にご挨拶に行くのです。
もう心臓がばっくばくですよ。
そんなわたしと打って変わって玲斗はしれっとした顔で、優雅にコーヒーなんか飲んでまして、何考えてるかさっぱりわかりません。それがまた絵になるんですけどね!

「玲斗、こんな格好でいい?」
「あ?」

わたしはお姉ちゃんにもらった授乳のできるワンピースを着てみました。
色も淡いピンクの春らしい色なので、この季節に合うような気がするんですが、どうでしょう。

「千穂、そんな服持ってたか?」

わたしの持ち物はすべて把握している玲斗が怪訝な顔をしています。

「あ、お姉ちゃんがくれたの」
「ふーん。別になんでもいいだろ」
「なんでもって、なんでもいいわけないでしょ!」
「千穂は千穂なんだから、どんなに着飾ったところで変わらねーし」

がーん。
そうですよそうですよ。どんなにメイクを頑張ってみても、かわいい洋服を着てみたところで、わたしの本質なんて変わらないですよ。
庶民ですからね。
なーんて口が裂けてもいえませんが!

そうしていると、インターホンが鳴りました。
国府田さんのお迎えです。
ここにもよく遊びに来てくださってるユリアさんは大丈夫よ〜っておっしゃってましたけど、やっぱり緊張します。
だって、ごく普通の家で育ったわたしには玲斗の実家なんて全く想像できないんですもの!

まるで敵地に飛び込んでいくような気持ちで、わたしは覚悟を決めたのです。

そうコトの始まりは3日前。3日前ですよ、みなさん!
信じられますか!?
3日前にいきなり、「本邸で花見があるから千穂も来い」と命令されたんですよ!
そりゃ、以前、両親に会わせるから、みたいな話をされたことはありましたが、まさかこんな突然こんなことになるとは思わないじゃないですか。
ユリアさんには思いがけず会ってしまって、なんだかこのマンションまでよく遊びに来てもらってますけど、玲斗の実家って・・・なんだかものすごーく怖そうなんですもの。
玲斗の家族のこともユリアさん以外知りません。
そんな状態で、わたしに小石川家本邸に行けというのでしょうか!

「千穂さん、そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。今日はユリア様もご在宅ですから」
「そうなんですか?」
「ええ。他には旦那様と、叔母君と、姉君とそのご家族の方、あとはそうですねぇ、どなたかいらっしゃるかもしれませんが、それくらいですよ」

車の中で、国府田さんが親切に教えてくださいましたが、それで緊張が解ければ何もいうコトはありませんて!
確かに玲斗に深いかかわりのある国府田さんもユリアさんもわたしにはとても親切にしてくれますが、そんな全員に祝福されるなんて夢にも思っていませんから!


   







   



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