実はわたし、結婚してます



あなたの手の温もり





玲斗のお母様であるユリアさんがいなくなり、わたしは授乳を始めました。

玲斗がじっと見つめてくるので、けっこう恥ずかしいのですが、でも授乳しないわけにもいきませんし、出て行って!というのもなんだか玲斗を傷つけてしまいそうですから、何も言わずそのままです。
それにしてもこんなところ見てて、一体なにが面白いのでしょう。
いや、確かにわたしからしてみれば、とっても可愛くてきゅんってなっちゃうんですが、男性の視点からしてみればどうなんでしょうねぇ。
やっぱり、可愛いなぁとか思ってるのでしょうか。
わたしには玲斗の考えていることがわからなくなるときがあります。

ユリアさんはあんなことを言っていましたが、玲斗はわたしだけを愛しているわけではないのです。
きっと今は好きでいてくれてるような気はするんですけどね。
いつか終わりがくる日まで、わたしは玲斗の妻であろうと思いますが、でも今とても複雑な心境なのです。

この子は男の子。
小石川家の跡取りです。
きっと玲斗が手放すはずはないでしょう。
そのときは、わたしひとり出て行けばいいと思っていましたが、あんなに痛い思いをして、こんな感動を与えてくれた悠斗をわたしは手放すことができるでしょうか。
こんなに可愛くて、愛おしくて、ひと時も離れていたくないのに、わたしと玲斗の結婚生活が終わりを迎えるときには、この子との生活も終わりになるんですよね・・・。
そんなこと堪えられません。

授乳を終えると、玲斗がそろそろ寝ようと言ってくれました。
わたしは悠斗をベビーベッドに寝かせると、小さな小さな手のひらに人差し指を乗せました。きゅっと握るような反応がすごくすごく嬉しくて何度もしてしまいます。

わたしはこの手をつないで歩くことができるのでしょうか。

「千穂?」
「え?」
「なに泣いてんだよ」

あれれ。
気づかないうちに涙が零れ落ちていたようです。
ダメですね。
母になって涙もろくなってしまってるようです。

「明日、退院だな」
「うん」

ベビーベッドの隣のベッドにふたりで入ると、玲斗が優しくそう声をかけてくれました。一応簡易ベッドはあるんですけど、玲斗は使わず、わたしと一緒のベッドなんですよね。
シングルベッドで狭くないのかなーとか思うんですが、玲斗の身体がすぐ傍にあってなんだか安心してしまうのも正直なところです。
玲斗はわたしの震えの止まらない手をずっと握っていてくれました。
その温もりがとても優しくて心地よくて、わたしはすぐにうとうとし始めました。
きっと3、4時間ほどしたら授乳で起こされるんですけどね。
それでも、わたしは小さな手の温もりと、大きな手の温もりに幸せを感じていました。

いよいよ家族3人の生活が始まるんですね。



あなたの手の温もりEND

   










   



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