実はわたし、結婚してます



実はわたしたち、結婚してます




わたしとユリアさんが同時に視線を向けます。

「悠斗!あらやだ、かわいくしてもらったわね!」
「悠斗、玲斗」

真っ白なタキシードに身をつつんだ玲斗に抱かれた悠斗もまた白のタキシードを着ています。髪も丁寧に整えられていつもより凛々しい顔つきに見えてわたしは微笑みました。

「まーま?」

悠斗は目の前にいるわたしの顔をみてきょとんとして目を丸くします。もしやこんなにお化粧した母親の姿に驚いているのかしら。ふと見れば、玲斗も驚いたような顔をしてわたしをじっと見つめていました。
なんなんでしょう、この親子。ふたりしてまさか似合ってないとでも思ってるのでしょうか。
ええ、そうですよ。
どうせ馬子にも衣装とか思ってるに違いありません!

「どう?千穂ちゃん綺麗でしょう?」

その状況を楽しんでいるかのようにユリアさんが玲斗に声をかけました。

「ほら、悠斗はばあばのところへいらっしゃい。ママは今日は抱っこできないからね。ほらママ綺麗でしょう?悠斗のママは今日はお姫様なのよ」

ユリアさんは玲斗の腕から悠斗を受け取ると、下におろし手をつないでわたしの傍に連れてきてくれました。間近で見てやっとわたしのことがわかったのか悠斗はにこやかに笑ってくれます。まさしく天使の微笑みです!
赤ちゃんだった悠斗も歩けるようになって季節の移り変わりを実感せずにはいられません。

「千穂、待ってるから」

玲斗はそれだけ言うと、さっさと背を向けて控え室を出て行きました。
あれ?もっと似合わないとかあれこれ言われると思ったので拍子抜けです。ユリアさんはくすくすと笑っていますが、わたしにはその理由がわかりませんでした。
バージンロードは周囲のすすめで父と歩くことになっていたので、待っている、というのはバージンロードの先でのことなのでしょう。
ほぐれていた緊張が再び体中を駆け巡る思いがしました。

「じゃあ、わたしたちもあちらにいるわね」

ユリアさんが悠斗を連れて出て行くのと同時に、慣れないスーツを着込んだ父が照れたような顔をして入ってきました。

「千穂、綺麗だよ」
「ありがとう、お父さん。今日は来てくれてありがとう」
「うん、娘の大事な結婚式だからね。でも千穂が結婚式をあげるとは思っていなかったからなぁ、ちょっと驚いた」
「だよね。わたしもビックリだよ」
「しかもこんなに盛大な」
「うん」
「お母さんはお姉ちゃんと一緒?」
「そうだね、みんな楽しみにしているよ」

久しぶりにお父さんと会話していることが、なんだか不思議な感じがしました。
わたしは両親のいる家庭で、ごく当たり前のように育ったのです。当たり前のように家族団らんがあって、食卓を囲んで、決してお金持ちとは言えない家庭かもしれないけれど、それでも幸せでみんなにこにこ笑っている家庭です。
そんな普通の家庭で育ったわたしが玲斗と結婚して、全く知らない世界に飛び込むこと、きっと両親は心配もしたのではないでしょうか。それでもわたしの幸せを願って、わたしの思うようにさせてくれている両親に、感謝の気持ちを伝えたいと、思ったとき、ユリアさんが教えてくれたんですよね。
親は娘の晴れ姿を一番望んでいるのよ、と。結婚式で幸せそうに微笑む姿を見て嬉しく思わない親なんかいないのよ、と。

結婚式はふたりの結婚のお披露目の場だけではなくて、もしかするとこれまで支えてくれたたくさんの人たちに感謝の気持ちを伝える場所なのかもしれません。

わたしはブライズメイドを務めてくれる友人たちに支えられ立ち上がりました。重たいウェディングドレスを引きずりながら、その場所へゆっくりと移動しました。

   







   



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