実はわたし、結婚してます



想いの果てに




「あら、誤解はすっかり解けたのね」

ユリアさんはわたしと玲斗の顔を見るなりニッコリ微笑んでそう言いました。
誤解?
誤解ってなんの誤解なのでしょう?

「何の用だよ」

相変わらずそっけない態度の玲斗ですが、どこか子どもっぽい表情を見せていて、きっと嬉しいんじゃないかと感じてしまいます。

「まぁ、心配して来てあげたのに、ひどいわねぇ」
「だいたい、てめーのせいじゃねえか!」
「やだ、玲斗ってば自分の至らなさを人のせいにするなんて、ちっとも反省してないじゃないの」
「……」
「って、こんな不毛な言い合いをしに来たわけじゃあないのよ―――千穂ちゃん」

ユリアさんはいきなりわたしの方に振り返りました。

「はいっ」

思わず学生が名前を呼ばれて返事するかのように声を出してしまい、思いっきり笑われてしまいました。

「千穂ちゃんはこんな言葉足らずのバカ息子との結婚生活、続けてくれるの?」
「え、っと、はい。玲斗が望む限りは」
「じゃあ、一緒の墓に入るまでだな」
「墓!?」

玲斗にごく当たり前のように言われ、それって一生ってことじゃぁ・・・なんてぽかんとしてしまったんですが。

「この通り、玲斗は素直に愛してるとか好きだとか言えない人間だから、千穂ちゃんはいろいろ淋しい思いをしたかもしれないけど、このバカ息子が千穂ちゃんを愛してるのは母親のわたしが保証するわ」
「え」

もしかしてユリアさんは全部知っていたんでしょうか。
知っていて、わたしと玲斗の別居に協力してくれたってことでしょうか。

「ほら、熱でぶっ倒れるくらい千穂ちゃんが大切なのよ」

 このくそばばぁ、などとぶつぶつ小さくつぶやく玲斗のことなんて完全に無視してユリアさんはにこにことしゃべっています。

「ただ千穂ちゃん、小石川家はいろいろと複雑なのよ。だから、玲斗はなにがなんでもあなたとの結婚を隠したかったのね。どうしたって玲斗の妻になるってことは小石川家の妻になるってことだから」
「……はい」
「あることないこと、口さがないことを言う人たちもたくさんいるわ。玲斗が庇いきれないことだってきっと出てくると思うの。そういう覚悟はあるかしら?」
「おい、ばばあ」
「玲斗は黙ってなさい」

玲斗が結婚を隠してきたのは周りに知られたくないからとか、離婚するためでもなんでもなく、わたしを守るため……。

「わたしが玲斗にふさわしくなれば、何も言われなくなりますか?」
「千穂ちゃん」
「千穂、お前・・・」

少し驚いたような顔をしてわたしを見ていたユリアさんは、そうね、とつぶやくとにっこりと微笑みました。

「玲斗が退院したら、私から…というより私たちから大切なお話をしましょうか」

玲斗は、不機嫌そうにまだなんかあるのかよ、とぼそりと呟いています。
でもあまりにユリアさんが真剣な表情をされていたので、はっきりとは言えないようです。
でも、私たち、って一体?
というわたしの疑問はすぐになくなりました。
なぜなら、そのお話の時にユリアさんの隣に座っていたのは玲斗のお父さんだったからです。

   







   



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