実はわたし、結婚してます



想いの果てに




「未来?」
「うん……」
「そんなもの望まなくてもすでにあるだろ」

あたかも当然というように言われ、わたしはぽかんとしてしまいます。

「結婚したときからお前の未来は俺のもんだし、千穂だってそう思ってたんじゃないのか?」

不審そうにそう尋ねてくる玲斗にわたしはなにをどう伝えればいいのか迷ってしまいます。

「でも玲斗は離婚するつもりで結婚したんでしょ?」
「はぁ?」
「だって」
「お前バカだろ」

あー、またバカっていいましたよ!この人!信じられませんっ!

「離婚するつもりなら最初から結婚なんかするわけないだろ。だいたい千穂みたいなのと結婚してなんの得があるんだよ」

得はないと思います。絶対。

「千穂は、結婚生活送ってきて、ずっと離婚するつもりだったのか?」
「え、……うん。だって玲斗がそうするつもりだと思ってたし。わたしと玲斗じゃどう考えても家柄とか釣り合わないし」
「まぁ家柄は釣り合わないな」
「うん……」
「だから、俺は千穂を小石川家から遠ざけてたんだろ」
「え?」
「千穂は最初、俺のマンションですら驚いてただろ。そんな千穂が俺のバックグラウンドなんか知ったら、絶対結婚なんかしないだろうと思ったからな」
「はい?」
「あのさ、なんで俺が好きでもない女と結婚なんかしなきゃいけないわけ?」

――――――――はい!?
い、い、い今、なんとおっしゃいました!?

「千穂」

その声と同時に玲斗の手に力が込められ、わたしの体は玲斗に引き寄せられるようにベッドに座る玲斗の上に覆いかぶさってしまいました。ふわりとした布団の感触を感じたかと思えば、わたしの顔は玲斗の胸の中にすっぽり納まってしまいました。

「間抜けな顔すぎて見てられない」
「ひ、ひどいっ!」
「千穂がバカすぎるからいけないんだろ」
「ば、ばかだけどっ。だって、玲斗が」
「俺がなんだよ」
「小石川家に関わらせないとか、悠斗に継がせないとか言ってたんだもん」
「はぁ?お前聞いてたのか」
「う、うん」

どきり、としてしまいます。こっそり聞いてたことばれてしまいました。自分の口から思わず・・・
けれど、玲斗がそのことを責めることはありませんでした。

「千穂はさ、小石川家を継ぐってどういうことかわかってんのか?」
「う……」
「ほとんど自由がなくなるってことだぞ。将来のことからなにまで全部敷かれたレールを歩むことになる。お前はそれで耐えられるのか?悠斗にそんな人生歩ませたいのかよ」
「……」

そういえば、ユリアさんと出かけるときはいつも警護の人が常に付き添っていました。玲斗のお父さんは小石川家に反発して、玲斗と離れ離れに暮らさなければならなくなったと聞きました。
もしかして、もしかしなくても、これまで玲斗がわたしとの結婚を隠し続けていたのは・・・。

「玲斗、…わたしのこと好きなの?」
「今更何言ってんだよ。このバカ女」
「どうせバカだもん」

思わず涙が溢れてきてどうしていいかわからなくなりました。嬉しくて、幸せで、今までなんで気づかなかったんだろうという後悔とか、どうしてはっきり玲斗に聞かずにいたのだろうといういろんな思いが溢れてきたのです。
と同時に、玲斗の意地悪で、不器用な優しさのすべてが、わたしの気のせいなんかではなかったこと、わたしはずっと大切にされていたこと、それらがよみがえってきて、涙を流す以外に表現する方法がなかったのです。
玲斗はわたしが泣き止むまで、胸をかしてくれてわたしを抱きしめてくれていましたがあまりにもわたしが泣き止まないからか、呆れたように言いました。

「着てるもんがびしょ濡れ」
「ご、ごめん」
「千穂」
「な、なに?」

ひっくひっくと言いながらも必至で涙を止めようとしました。

「抱きたい」
「―――――!!」

思わず見上げると、意地悪そうに笑った玲斗の顔がありました。

「お、涙止まった」
「れ、玲斗っ!!」
「ぶっさいくな顔になってるなー」
「ひどいっ。そりゃわたしは美人じゃないけど!」
「まあ美人じゃないけどな」
「うん」
「可愛いとは思うよ」

えええええええええええ!?!?!?
れ、玲斗の口からそんな言葉が出るなんて、やっぱり玲斗熱がまだあるんですよっ。
だってだって玲斗がこんなこと絶対言うはずがありませんもの!

「ん――――」

と思ってたら不意打ちです。
唇を塞がれてしまいました。
玲斗とのキスはあまりにも久しぶりで、懐かしくて、でも優しくて愛おしくて、思わずわたしは玲斗の首に両腕を巻きつけてしがみついてしまいました。

いつまでもいつまでも、こうしていたい。そんな欲求が生まれてしまうのです。


   







   



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