実はわたし、結婚してます
想いの果てに
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「欲しいもの?」
なにを言っているのでしょうか?
玲斗が一体何を言いたいのかさっぱりわからず、わたしは首を傾げました。
「だから、千穂がほしいもんだよ」
「別になにも…」
欲しいものなんてないんですけど。
しかも毎日のように何かしら送られてきてましたからね。
と思いつつ、玲斗があまりにも真剣なので、わたしは黙り込んでしまいました。
欲しいもの、というよりは願いならあります。
たったひとつだけ。
けれど、それを言ってしまったら――。
「少なくとも、竹取物語じゃないよな……」
「はい!?」
竹取物語!?玲斗ってば何を言っているのでしょうか。
「だいたいあんなわけのわからん物、千穂がほしがるわけないし、一体あの女は何を考えてあんなこと言い出したんだ?」
玲斗はぶつぶつと不満げに言っていますが、わけのわからないのは玲斗ですって!
「千穂はかぐや姫って感じじゃないしな」
そりゃ、かぐや姫みたいな美女じゃないことだけは確かですよ。ていうか、いきなりわけわかりません、この人。欲しいもの聞いてきたり、そうかと思ったらかぐや姫がどうのとか。高熱で頭でもおかしくなったんじゃないでしょうか。
「あんなに美しくないよ、どうせ」
「あんなにって見たことあんのかよ」
「ないけど、かぐや姫って美人だって書いてあるし」
「美人だけど高飛車で厚かましい女だな」
「えー、確かに無理難題を言ってるけど、そこまでしてかぐや姫と結婚したいって思うくらいだから、かぐや姫はやっぱり魅力的だったんだよ」
って、なんでここでこんなに真剣にかぐや姫の話をしてるんでしょうか!?
「ああ―――、そういうことか。あの女またややこしいことを…」
突然納得したように玲斗が頷きました。いえ、わたしにはさっぱりわからないんですけどね。
わたしが首をかしげていると、いきなり玲斗が向き合ってきます。
「で、お前は何がほしいんだ?」
結局そこに話が戻るんですね。
玲斗の指がわたしの腕を掴みました。そしてゆっくりと玲斗は起き上がると、見上げていたはずの玲斗の顔が今度はわたしを見下ろしていました。
わたしは少し距離をとろうと立ち上がろうとしましたが玲斗の強い指先の力がそうさせてはくれません。
わたしはうつむいたまま、息を呑みました。
静かな時だけが流れます。
じっと見つめられているのを感じてドキドキと心臓が高鳴ります。こんなに傍にいたら、きっとこの音は玲斗に届いていることでしょう。
「千穂、なにがほしい?」
もう一度聞かれ、わたしは意を決して玲斗を見上げました。
「玲斗との未来」
言ってしまいました。ついに、この言葉を。
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