実はわたし、結婚してます



想いの果てに




「玲斗…ご、ごめんなさい、起こしてしまって」

慌てて玲斗の傍に駆け寄り、わたしはあたふたと悠斗を背負ったまま、体を揺らしてあやし、玲斗の顔を覗き込みました。

「いや、夢見が悪かったから助かった」
「夢見?」
「それより、千穂はなんでここに、いるんだ?つーか、ここどこだ?」

意識がしっかりしてきたのか、ふと見慣れない部屋に玲斗は怪訝そうな顔で首を動かして、起き上がろうとします。

「まだ寝てなきゃだめだよっ。玲斗、熱で倒れたって」
「熱?」
「うん」
「ああ、それでこんなものが」

玲斗は納得したように腕に刺された点滴を見つめ、大人しく横になりました。
そこへ国府田さんが声をかけて入室してきます。

「ぼっちゃま、気がつかれましたか」
「ああ」
「お加減はいかがでしょう?」
「だいぶいい」
「それはようございました」

憮然としたいつもの態度に国府田さんはホッとしたように微笑みました。

「よろしければ悠斗様をお預かりいたしますので、お二人でお話なさいますか?」
「え、でも・・・」

なおも背中で泣き続ける悠斗を預けるのはなんだか申し訳ない気持ちになってしまいます。

「もうすぐユリア様もいらっしゃるということですから、お気になさらずともよろしいですよ」
「じゃ、じゃあお願いします」

わたしは悠斗を背中から降ろすと、国府田さんに預けます。するとなぜだかピタリと泣き止み、いきなり笑みを浮かべ始めました。

な、なんてことー!!
悠斗ってば母親の背中がイヤだって言うつもりー!?

と思ったりもしましたが、とりあえず泣き止んでよかったと思うことにしました。
国府田さんが悠斗を連れて病室を出ると、さっきまで泣き声で満ちていた部屋はしんと静まり返ってしまい、かえって居心地の悪さを感じてしまいます。

「あの、玲斗……?」

何か考えているような無表情の玲斗を見つめます。

はっ、そ、そういえば、わたし……黙って家を飛び出してきたまま、一切連絡もしていなかったんですよ!携帯の電源も切ったままにしてましたし!
怒ってないわけないですよね!
もしかしなくても怒ってますよ、絶対!
いきなり現実に戻されたような気がして、わたしはいろんな意味でドキドキしてきてしまいます。

「千穂」
「はい!」

いきなり真剣な瞳で見つめられ、思わず視線を逸らしてしまいそうになりました。

「お前の一番欲しいものってなんだ?」


   







   



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