実はわたし、結婚してます



小石川家の妻





「これ、俺の妻の千穂と長男の悠斗」

え、えええええええ!?
なんですか、この紹介の仕方!完全に上から目線ですよ!
ありえないです、この人。
みなさん、あまりのことでポカンとしてるじゃないですか。ユリアさんは笑いをこらえてますけど!
わたしの両親に土下座したときとは全く正反対じゃないですか。

「ぼっちゃま、いきなりそのような・・・。千穂さんだってお困りですよ。みなさまも突然のことですから、もう少し前後関係も説明されたらどうです?」

あまりに玲斗の態度がでかいのでおろおろしていると、国府田さんがそんな風におっしゃってくださいますが、玲斗は不機嫌なまま何も言いません。誰も何も言うことがができず固まっている中、皆様の視線を一斉に浴びせられているわたしは悠斗を抱え、どうしていいかわからなくなってしまいました。
それでもなんとかこの状況を脱したくて、勇気を振り絞って頭を下げました。

「あの、わたし、旧姓井原千穂と申します。玲斗さんとは5年前に入籍し、昨年末にこの子を出産しました。ご報告が遅れまして本当に申し訳ございません!」

「「「「5年前!?」」」」

みなさんの声が一斉にそろいます。
そうですよね。うちの両親がトクベツなだけで、普通驚きますって!
あああ、やっぱりわたしとんでもないことをしてしまっているのかもしれません。
玲斗みたいな人と結婚して、子どもまで産んでしまったんですから。

「千穂さん、顔をあげてちょうだい。あなたは何も悪くないんだから〜。ほら、悠斗を皆に見せてあげてちょうだい」

頭を下げたままでいると、ユリアさんが優しくそう声をかけてくださいました。

「ほらー、可愛いでしょ〜。目がくりくりっとしていてわたしにそっくりだと思わない?孫よ孫!」
「お母様!孫なら我が家にもいるでしょ!」
「あら、そうだったわねぇ。でもあなた宝生家の人間だから……ねぇ?」

玲斗のお姉さまがユリアさんと話をしています。
けれどなんだか論点がずれてるような気がするんですけど。

「それよりお母様は全部ご存知だったんですか!玲斗のこと」
「ええ、そうよ。親なんだから当たり前でしょ。あ、あなたのお父様は知らなかったけれどね」

ユリアさんはふふふと笑います。やっぱり何かが違う、この人たちは、と感じながらもわたしやっぱり堂々と顔をあげずにそのままうつむいていました。

「梨奈お嬢様。玲斗ぼっちゃまのご入籍の際、保証人となったのはわたくしと、百合亜様でございます」

国府田さんがまたしてもフォローを入れてくれます。

「てことは、国府田とお母様だけがご存知だったってこと!?」
「そうなるわね」
「お父様!!お父様もなにかおっしゃってよ!」
「……私は、特に」

え。
玲斗のお父様はあからさまに玲斗から視線を逸らしました。
表情に抑揚もなく、どうでもよさそうな顔です。その瞬間悟ります。
ああ、やっぱり。
お父様は反対なんですよ、きっと。

「親父はさっさと俺が後継者になればいいだけで、他のことなんてどうでもいいからな」

ぎょっとしました。れ、玲斗ってば!お父様になんてことを・・・何を言ってるんでしょーか!
なんだかわけのわからない展開になってきてますよ!
異様な雰囲気を察したのか、今度はぐずりを越えて悠斗がふにゃっと泣き始めました。
ど、ど、どうしましょう!
悠斗の様子をちらりと見た玲斗はため息とともに言いました。

「千穂、俺の部屋に行ってろ。国府田、案内してくれ」
「はい。かしこまりました」

そんなこと言われても・・・。本当にいいのでしょうか。

「で、でも・・・」

わたしが困った顔をしていると、国府田さんはニッコリと微笑んでぽんぽんと肩を軽く叩きます。

「行きましょう。」

もしかして、わたし、この場所にいないほうがいいってことでしょうか。
わたしは一礼すると、国府田さんの後をついて、部屋を出ました。

「あの、国府田さん、玲斗のお父様って……」
「千穂さん」
「はい」

言葉を遮るように国府田さんがわたしの名前を呼びました。余計なことだったのかもしれません。

「千穂さん、少し庭の桜でもご覧になりますか?」
「え、は、はい」
「明日には皆さんでお花見をすることにはなっておりますが、今日は天気もよく、綺麗ですよ」
「はい・・・」

わたしにはなぜ国府田さんがこんなことを言い出したのかわかりませんでした。


   







   



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