実はわたし、結婚してます



あなたの手の温もり




きゃー、ずっと見つめていても飽きませんよ〜。
なんてかわいいんでしょう。

「もうすぐパパ、帰ってきますよ〜」

小さな手をつんつんとつついてみます。


わたし、小石川千穂、27歳。
つい5日前、母になりました。
大部屋がいいと言ったんですが、玲斗がどうしても、というので個室になりまして、しかもなぜかわかりませんが玲斗までここに泊り込みで生活することになってしまったのであります。
一家で病院に入院生活をし、玲斗はここから仕事へ通うのです。
しかも病院食なんか食えるかと言いながら、おとなしくわたしと同じものを食べているんですよ。
ぶつぶつ言ってるんですけど、赤ちゃんがふにゃって言うと、すぐに顔色を変えてにこにこしてるんです。
あの玲斗がですよ!
にこにこ顔見せてるんですよ!
奇跡です。
信じられないほどの奇跡です。
いやー、赤ちゃん威力ってすごいですね。

さて、赤ちゃんの名前ですが、玲斗が決めましてですね。

悠斗。


小石川 悠斗。
こいしかわゆうと、と名づけられました。
玲斗の名づけセンスに、不安があったんですけど、口にしてみるとなかなかいい感じで、素敵なんです。
わたしはすぐに気に入ってしまいました。

「ゆうく〜ん」

眠っている時間がほとんどの悠斗を見つめ、何度も名前を口にしながらわたしはそろそろ帰ってくるであろう玲斗の帰りを待っていました。
そこへ。

トントン。
ノックの音がして、ドアがゆっくりと開きました。

「こんにちは」
「あ、ユリアさん、こんにちは」

ビシッとビジネススーツに身を包んだ彼女は、産休前にわたしに親切にしてくださった、ユリアさんです。
あの時は名前も聞いていなかったんですが、出産翌日、わたしに会いにきてくださいました。

「今日は遅めなんですね。お仕事お忙しいんですか?」
「ええ、そうね。今夜はそろそろネタばらしをしなければと思ってね」
「え?」
「千穂さんもほら明日退院でしょう?」
「はい・・・?」

ネタばらし?
ユリアさんはくすくすと笑いながら悠斗を抱っこしてくれています。

「千穂、なんでドア開けっ放しなんだよ」
「玲斗。おかえりなさい」

帰ってきましたよ。俺様玲斗!わたしの旦那様であり、この子の父親が!

「げ、ババァ!」

ば、ばばぁ?
玲斗はユリアさんの姿を見ると露骨に嫌そうな顔をしました。

「あら、玲斗おかえり」
「な、なんでてめーが、こんなとこに。つーか、なんでこの場所知ってんだよ!」
「あのねぇ、知ってるに決まってるでしょう?あなた、わたしを誰だと思ってるの?ねぇ、ゆ〜くん。あなたのパパはホントおばかさんよねぇ」
「千穂!なんでこのババァを入れたんだよ!」
「え?だ、だって・・・」

玲斗の上司で、もしかすると愛人さんかもしれないのに邪険になんかできるはずないじゃないですか。

「あら、千穂さんは何も悪くないのよ。ばーばが孫に会いたかっただけなんですもの、ねぇ?」
「ば、ばーば?」

ポカン、とわたしはユリアさんと玲斗を交互に見つめました。

「千穂さん、ごめんなさいね。わたし、玲斗の母で、小石川百合亜。玲斗がどうしてもダメって言うからなかなか名乗れなかったの」
「はぁ?!てめーが、妊娠中に動揺させるようなことしちゃいけねーっつうから・・・」
「あら、そうだったかしら。まぁなんでもいいわ。千穂さんのお母様にも遠くてなかなか行けないって頼まれてるから、これからはわたしのこと本当の母のように頼ってね」

ユリアさんは悠斗をあやしながらニコニコと微笑んでいます。
あのですね・・・。
わたし、今大混乱中でございます。
もう一体なにがなんだかわかりません。
ユリアさんは玲斗のお母さんで?
お母さん?といえば、どうしてわたしのお母さんが出てくるんでしょう。

「ほ、本当にお義母様なんですか!?愛人さんじゃないんですか!?」

「「愛人!?」」

思わず出てしまったわたしの言葉にふたりの声が重なり、わたしはふたりの視線を思いっきり受けることとなりました。

   









   



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