実はわたし、結婚してます
月に叢雲、花に風
6
目を覚ますと自宅のベッドに横たわっているのがわかりました。
そしてそんなわたしの身体を包み込むように玲斗が両手を回し、まるでわたしを抱き枕のようにして眠っていました。
「玲斗・・・」
ああ、そうです。
昨日奈々ちゃんがここへきて・・・
なんだかものすごい修羅場を経験してしまった気分です。
「千穂、起きたのか」
「うん。なんかいっぱい寝ちゃった・・・。ごめんなさい」
「いちいち謝るな」
「う、うん・・・」
「身体はなんともないか?」
「大丈夫みたい」
「そうか・・・。ならいいんだ」
どうしましょう。
なんだかとてつもなく玲斗が優しいんですけど。
最近玲斗の機嫌の良し悪しの差が激しいと思うのはわたしだけでしょうか。
「あ、今からご飯作るね」
「いい」
「でも・・・」
「いいから、寝てろ」
「でもいっぱい寝ちゃったから、もう寝れないよ」
玲斗の様子もなんだか変なのが気になりますからね。
わたしはふいに思い出して玲斗に聞いてみました。
「玲斗は、奈々ちゃんのこと全部わかってたんだよね?」
「ああ」
「わたしってやっぱりバカだよね」
「そうだな」
少しくらい否定してくれたっていいでしょう!
でも事実は事実ですしね。
「でも、そういうバカなところが千穂のいいところだしな」
「え?」
やっぱり変ですよ、今日の玲斗!
「千穂、いつでも俺がお前を助けてやれるわけじゃないから」
「うん・・・。気をつける」
なんでこんなに優しいんでしょうか!気持ち悪いったらありませんよ!
でも、玲斗の言うとおりです。
これからは自己責任、わたしが気をつけなければいけません。
もう二度と同じ過ちを繰り返さないためにも、そして玲斗から自立するためにも!
「千穂、キスしていいか」
「え、う、うん・・・」
玲斗がキスしていいかなんて聞いてくるなんて、やっぱり玲斗はどこかおかしかったんです。
こんな玲斗の態度に気づいていながら、わたしはどこかで気づきたくなかったのかもしれません。玲斗の変化に。
だから何も聞かなかったんです。
だって、もう少し玲斗の傍にいたかったから。
玲斗の傍で笑っていたかったんです。
玲斗のキスを受け入れながら、わたしはゆっくりと目を瞑りました。
月に群雲、花に風、END
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次は玲斗編です。