実はわたし、結婚してます





月に叢雲、花に風





「れ、玲斗!だめっ!!」
わたしの必死の訴えにも玲斗は決して耳をかすことなく、その行為を続行させます。そうなってしまえばもうわたしは玲斗になされるがままで、どうすることもできなくなってしまうのです。
そして次の瞬間には玲斗から与えられる快感で、もっともっとと玲斗を求めてしまう羽目になるのです。

すべてが終わって、ぐったりとしているわたしに玲斗が問いかけます。
「なにがダメなんだよ」
なにって・・・。
「・・・」
玲斗は最近、そう・・・クリスマスが終わったあたりから、わたしを抱くときに避妊をしなくなったのです。
これまでどんなときでも玲斗が避妊を怠ったことはありませんでした。
レイプまがいに抱かれた時はもしかするとしてなかったかもしれませんが、わたしが知る限り、玲斗は絶対に避妊していたのです。
きっとそれはわたしと離婚したいと思ったときにすんなり離婚できるようにということでしょう。
わたしだって困ります。
ひとりで子育てをしていく自信なんてまったくないですから。

「赤ちゃん、できちゃうよ?」
わたしは思い切ってその言葉を口にしてしまいました。
「だったらなんだよ。夫婦なんだから子作りしてなにが悪いんだよ」
「それはそうだけど・・・」

でも、これまで一言もそういうことを言わなかった玲斗です。まるでそのことに関しては絶対に触れたくないと思ってるみたいでした。
一体どういうことでしょう。
もしかして!
わたしに後継ぎだけ産ませようってことでしょうか!?
玲斗の実家のようなところって、女に後継ぎ産ませて、あとはポイ。子どもが生まれれば英才教育を受けさせて立派な後継者にさせるとか!?
う、うわー!信じられないけど、そういうこともありそうですよ!

「千穂は俺の子どもを産みたくないのか」
「え!?」

わたしの頭の中ではいろんなストーリーがめぐりにめぐっていたので、玲斗が何を言ったのかさっぱり聞いていませんでした。
「なにか言った?」
わたしが耳を傾けると、玲斗は不機嫌そうにわたしに背を向けました。
「もういい。寝る」
「え!?しゃ、シャワーとか・・・」
浴びないのでしょうか?
行為の後、そのままです。
汗もかいてベトベトだし、その・・・なんというか。
「千穂だけ浴びてくれば。気持ち悪いんだろ」
「気持ち悪いわけじゃなくて・・・お布団汚しちゃうし・・・」
「だからシャワー浴びてこいっつってんだろ!」

こわっ!
なんか玲斗お怒りですよ。お怒り。
わたし何か変なこと言ってしまったでしょうか!?
シャワー浴びないと気持ち悪いのは玲斗の方じゃないかと思うんですが・・・。
しかし、わたしだけシャワーを浴びにいくなんて今の状況ではちょっと無理ですよね。
仕方がありません。
わたしもおとなしくこのまま寝なければなりません。

玲斗がおかしくなったのは、このことだけではありません。
なんとこの間は、わざわざ遠方のわたしの実家にまで行って・・・突然わたしの両親の前で土下座して、すでに入籍していることを告げたのですよ!
あの日、言ってたことは本気だったんです!
わたしはあまりにものことに開いた口が閉じることなく、目の前の光景を呆然と見つめていました。だって玲斗が土下座ですよ、土下座!大嵐?もしかしてハリケーン?天変地異でも起こるんじゃないかってくらいじゃありませんか!
その衝撃的告白に、「あらー、事後報告でも事前報告でも千穂が幸せならいいのよ♪」とのん気に答えてたうちの母と・・・隣で笑顔でうなずく父もどうかと思いますけどね!
一生の問題を事後でも事前でもいいって・・・どういうこっちゃ!ですよ。

はー、一体なんなのでしょう。この玲斗の行動は。
これまで散々秘密にしろって言っていたのは玲斗です。
それなのに、わたしと結婚してることがバレてしまって困るのは玲斗のはずなのに、なぜこんな公表するような真似をするのでしょうか。
これでは離婚するときにややこしくなってしまうのは言うまでもないと思うのです。
一体玲斗が何を考えているのか・・・

わたしは行為のあと背を向けて眠ってしまった玲斗の後姿を見つめました。
照明を落として暗くなってしまった部屋では玲斗の気配しか感じられませんが、少しずつ目が慣れてくると布団の膨らみがわかります。
わたしはさりげなく玲斗の傍に寄っていきました。
玲斗にとってわたしは一体どんな存在なのでしょうか。
今は妻という立場に守られていますが、こんなの紙切れ一枚で簡単に消えてしまうものなのです。

「千穂」
「は、はい」
「俺に近づくな」
「ご、ごめんなさい・・・」
やっぱり玲斗は怒っているようです。しかも相当・・・。
わたしは限りなくベッドの端のほうへごそごそと移動すると、玲斗に背を向けて眠ることにしました。



   








   



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