実はわたし、結婚してます





あの頃の君をもう一度





それは、休日の午後のことでした。

「千穂、なにやってんだよ」
「え?あー、高校のときのね、卒業アルバムをね、見てるの。懐かしいなーって思って」
「・・・卒業アルバム?」

そうなんです。
実は、実家の父が来年、定年退職を迎えるということで、実家のほうではなにやら新たな計画が立てられているらしく・・・というのは、どうやら自宅の一戸建てを処分して、もう少し便利な場所でマンション購入を考えているらしいのです。
姉も遠くに住んでいますし、わたしも自立してますからね。
一戸建てだと掃除も大変だし、広すぎるみたいなんですよね。当たり前ですけど、祖父母が生きていた頃は同居もしてましたから、部屋はたくさんあるのです。
で、マンションに引っ越すにあたって、大掃除をはじめたようなんですが、実家に置いていた、わたしの学校時代の荷物が次から次へと送られてくることになってしまったのです。
まあ、玲斗のマンションは広いですから、置き場所はいくらでもあるんですが、もし離婚してひとりになったらこれはもう大変ですよ。
母曰く、「自分のものは自分で処分するか置いておくか決めてちょーだい。」とのことなので、自分で中身をごそごそと探っているというわけです。
そんなことをしていたら、懐かしい高校時代の卒業アルバムを見つけたんですよね。
もちろん、中学校のものも小学校のものも・・・幼稚園のものまでありますよ。
ホント、わたしにもこんなかわいい時代があったのか、って思っちゃいます。

「玲斗?」
わたしの横に座って、わたしが見ているアルバムを玲斗が覗き込むようにしてじーっと見つめています。
「これ千穂か?」
「そうだよ〜?なんかあんまり変わらないよね」
「いや・・・。そうか・・・」
「?」

なんなのでしょう。玲斗ってば。
いつもの俺様な態度がちっともありません。もしかして少しは女子高生のわたしをかわいーとかおもってくれてたり・・・するわけないですよねー。
どこからどうみても田舎育ちの田舎娘・・・。だっておさげですよ。おさげ!
しかもセーラー服におさげなんて・・・ホントいかにも・・・ですね。

玲斗はわたしの卒業アルバムを、幼稚園から高校までなにひとつ見逃すことなく全部見終えると、とんでもないことを言い出しました。
「千穂、この制服はもうないのか?」
「え?」
制服ですか・・・。
「セーラー服なら、一緒に送られてきてるけど・・・もういらないから、捨てようかと・・・」
「・・・」

玲斗がとなりに置いてあった箱の中をごそごそと探っています。
もしかして・・・
玲斗、セーラー服ほしいのでしょうか。
も、も、もしかしなくても、制服集めるのが趣味、とか!?
え、え、えー!!!
またしても玲斗の意外な趣味を発見してしまいましたよ!!
「玲斗・・・ほしいなら・・・あげるよ」
わたしはおそるおそる玲斗に声をかけました。
そうです。動揺してはいけません・・・。
人は誰だって趣味くらいありますからね。
たとえ玲斗がアニメオタクだろうが、女子高生フェチだろうが・・・犯罪さえ犯さなければ問題ないですから、玲斗の気持ちは尊重してあげなければなりません。

「はぁ?お前が着るんだろ」
「は?」
「ほら、着て見せろよ」
「な、な、なに言い出すの!制服なんて着れるわけないじゃん!わたしもう26歳だよ!」
「そんなの関係ねーだろ。千穂は童顔だし、体型だってこの頃とそうたいして変わってないんだろ」

そ、それはそうですけど〜。
女子高生時代と体型がたいして変わってないってのは嬉しいことなのか、哀しいことなのかわかりませんが、確かにあまり変わってはないですね。
「いいから着ろよ」
「無理無理無理!」
「なんで?」
「だって・・・恥ずかしいし」

一体、玲斗は何を言い出すのでしょうか。
冗談もほどほどにしてほしいですよ。
高校卒業してもうかれこれ8年くらいたってるんですよ。着れるはずないじゃないですか。
そうしていると、玲斗が真剣な顔になりました。

「俺はさ、千穂の高校時代を知らないわけだよ」

そりゃそうですよ。知り合ったのは社会人になってからですし。

「だから、千穂が女子高生だった頃のことを少しでも知りたいと思うのは当然だろ」
「そ・・・そっか」

確かに・・・それもそのとおりですよね。
わたしだって玲斗が高校に通ってた頃のこと知りたいなーって思いますし。
玲斗の学ラン姿・・・・それともブレザー姿?・・・み、見たい!
確かに見たいですよ、それは!!

「じゃあ、玲斗も制服着てよ」
「・・・そんなのもうあるわけないだろ」
「えーーー!」

そんなぁ・・・わたしだけってことですか?
ひーどーいー!
ぶつぶつ文句を言ってみますが、玲斗には決して逆らえないわたしはおとなしくセーラー服を抱えて別室へと向かいます。
さすがに身体のすみずみまですべて知られているはいえ、玲斗の目の前で着替えるのは恥ずかしいですからね。

はー、それにしてもまさか、この歳になって制服を着ることになろうとは夢にも思ってみませんでしたよ。
これも、お母さんが勝手に荷物を送りつけてきたせいです。ううう。
これで制服姿を見せたら絶対処分してやるんですから!

わたしは覚悟を決めて制服に袖を通し、玲斗の待つリビングに戻りました。

「れ、玲斗・・・」

ああ、もう恥ずかしいことこの上ありません!
普通に当たり前のように着てた高校時代ならまだしも!

「千穂・・・」
「え?」

なんだかものすごく熱い視線で見つめられているように感じるのはわたしだけでしょうか。
ってここにはわたしと玲斗以外いないんですけどね。

「れ、玲斗・・・?」

頭からつま先まで、じろじろと見られ、気づくとわたしの身体は玲斗の引き寄せる力のままに、ソファの上に押し倒されます。
や、やばくないですか・・・この状況はー!

「俺は、こういう趣味はまったくなかったんだが、千穂は別だな」
「ええ?」

なにが別なんですかー!

「こういうのもたまにはいいかもしれない」

たまには!?なにが!?

「ふがっ」

え?え?
玲斗ってばキスしてますよ〜!!
しかもスカーフ抜いてます。するり、と。頑張ってキレイに整えてみたスカーフを、一瞬で抜き取ってますよ〜!
スカートをめくりあげてわたしの両足に玲斗の片足が割って入ってきます。
もしかしてこのまま・・・このまま・・・わたし・・・襲われちゃうんでしょうか!?



    








   



inserted by FC2 system