実はわたし、結婚してます 〜忘れもの〜







いつものように怒られる怒られると覚悟していたのに、玲斗は怒るどころか、申し訳なさそうにしています。
そしてなんと!

「ごめん・・・」

と謝ったではありませんか!
明日は雪ですよ。雹です。猛吹雪です!下手すりゃ夏と冬が一緒にくるかもしれません!

「な、なんで玲斗が謝るの。わたしこそごめん。お弁当・・・持ってくるの遅くなって」
「いや、最近あの元木とかいう男、マークしてたんだ」
「え?」
「女性社員からいろいろ相談があったらしくてさ」

玲斗の話に頭の中はクエッションマークだらけ。
一体玲斗は何の話をしているのでしょうか。
元木さんがマーク?女性社員の相談??

玲斗はわたしのパンプスを脱がせ、なぜか、ストッキングの上から足に触れ、傷がないか確認してくれます。
足は大丈夫よ、なんて思ったけれど、玲斗の触れる手のぬくもりがストッキング越しに心地良くて、そのまま任せてしまうのが不思議です。

「あの男、意にそわない結婚をさせられるらしくて、最近ちょっと行動がおかしかったらしい」
「・・・」
「夜の繁華街に繰り出してはとっかえひっかえ女持ち帰ったり、社内の女に強引に手を出そうとしたり。まぁ、喜んで相手した女もいたみたいだけどな。結婚相手への当てつけらしい」
「そ、そうだったの!?」
「ああ。それで千穂もターゲットにされてたみたいで。俺がもう少し早く気づいてれば・・・」

それであんなわけのわからないことを言っていたんですね。
結婚は束縛だなんだとか。

「あ、でも・・・玲斗・・・良かったの?結婚してるって言っちゃって」
「あー。別にもうアイツここにはいられなくなるだろうし。良くて支店に左遷か普通辞めるだろ。わかっててやってたんだろうし」
「そ、そっか」
「それより、千穂、ストッキング伝線してる」
「ええ!?」

さっきロッカールームでひっかけてしまったんでしょうか。
ううー、新しく買ったばかりのものだったのにー、こういうのに限ってすぐに伝線しちゃうんですよね。一応替えはありますけど。

「俺が履き替えさせてやろうか?」
「は、はぁ!?い、いい!大丈夫!自分でやる!」

なんて言ってる側から、玲斗はわたしのスカートの中に手をつっこんできましたよ!
ちょっとちょっとちょっと〜。
そ、そんな風に触られてしまうとホント困ってしまうんですけど。
玲斗の個人オフィスとはいえいつ誰が入ってくるかわからないんです。
特に国府田さんなんて入ってきそうですよ。

「れ、玲斗!ちょっとまって・・んー」

唇までふさがれてしまいました!
玲斗の強引さにはかないません。
こうなってしまうとわたしは玲斗になされるがままになってしまうのです。

「やっぱり生足の方がいいな」

玲斗は器用に片手でクルクルとストッキングを脱がせ、膝のあたりでとどめます。
なんだかいやらしい格好です。
こんなソファの上で、玲斗ってば・・・
一体どうするつもりなのでしょう。
なんて・・・、実は心のどこかで期待してしまってるわたしは玲斗の思い通りなのかもしれません。
玲斗のキスに酔いしれながら、身を任せるのです。

玲斗に会社で抱かれるのはこれで2度目です。
1度目はまだ結婚したばかりのときでした。
あの時は最後の最後まで拒否したようなしなかったような・・・でも結局玲斗に逆らうことなどできなかったんですけどね。

「あ、玲斗・・・わたし仕事放り出したままだ」
「千穂・・・そういう萎えること言うな」
「あっ、や・・・」

ひとつになってるときに言うのもなんですが、だって、本当のことなんですもの。
それに一体今は何時なんでしょう。わたし、このまま玲斗に抱かれていてもいいんでしょうか。



すべて終わって、ソファの上でさっきまでの余韻に浸っているわたしに比べて、すぐに切り替えのできる玲斗は、わたしが苦労して持ってきたお弁当を取り出すとふたつ、ドンとテーブルに並べました。
そしてどこぞへ電話をかけていました。

「千穂の部署には国府田に連絡しておいてもらった。今日はお昼食ったら早退しろ」
「早退!?な、なんで!」
「いろいろあったんだし別にかまわないだろ」

いろいろって・・・。
一体部署にはどのような報告がいったのでしょうか!?
元木さんのこととか!?
玲斗ってばどこまで話をしたのでしょうか。
なんだか恥ずかしすぎて明日出勤するのがイヤなんですけど。

「わたしなら大丈夫だよ」
「千穂、その姿で戻るのも無理だろ」
「へ?ストッキング新しいのあるよ?」
「・・・。もういい」
「じゃあ、仕事に戻る」
「ダメだ」
「なんでよ。もういいんでしょ」
「だからダメだっつってんだろ」
「・・・」

玲斗は一度言い出すと絶対に断固として認めてはくれません。
また今日も早退。
欠勤早退はなるべくしたくないって気持ち、玲斗はわかってくれてるんでしょうか。

「わかった。じゃあお弁当食べようよ」
「ああ」

苦労して持ってきたお弁当。
ホント、このお弁当のおかげで散々な一日になってしまいました。
しかも社内で・・・またあんなことを・・・。
絶対にもうこんなことにはならないようにしないといけません!
誰も入ってこなかったからよかったものの!
あんな恥ずかしい姿、誰にも見せられません。
それなのに玲斗にあんなにも感じてしまうわたし、ちょっとおかしいのでしょうか。
ここが会社だから、ってことは思いたくもないです!

玲斗は黙々とお弁当を食べています。
さっきまでの情熱的な玲斗とは大違い、なんて清々しいお顔をしてるのでしょう。
欲望さえ果たせればそれでいいんでしょうかね、男の人は。
わたしなんてまだ身体がふわふわしてるっていうのに、玲斗のバカー、と心の中で叫んでみます。もちろんあくまで心の中でだけですよ!

ちらりとお弁当を口にする玲斗の顔を眺め、ふと思い出しました。
そういえば、玲斗と出会ったきっかけはお弁当だったのです。
あぁ、あれがわたしの苦悩の始まりだったのかもしれませんね。

「千穂、まっすぐ家に帰れよ」
「わ、わかってるよ」

もー。
おいしいとも、マズイとも言ってくれず、空になったお弁当箱だけ手渡す玲斗にはほとほと呆れてしまいます。
ありがとう、おいしかったよ。なんて言ってもらえたら死ぬほど喜ぶんですけどね!まさか玲斗に限ってそんなセリフはありえないですね。

「あ、千穂」
「ん?」

「帰ったら続きしよう」
「え、ええ!?」

続きって。なんの続きでしょうか!
さっき散々・・・
きゃー、わたしってば思い出して照れてしまってます!きっと顔が真っ赤になってるに違いありません。
そんなわたしを見て玲斗はニヤニヤ。
「ここじゃ満足できなかっただろ?」
いえいえ!満足ですよ!満足すぎます!
あああー、こうしてまたわたしの玲斗に逆らえない夜がやってくるんですよ。

わたしは観念して玲斗のオフィスを後にしたのです。


    




玲斗は色っぽい千穂ちゃんを誰にも見せたくないんです。
社内でもらぶらぶ?なふたりでした。







    



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