実はわたし、結婚してます 〜おみやげ〜







「ただいま〜」

なんて言っても今日は誰もいないのです。
ちょっと調子にのって飲み過ぎてしまったようです。
だってお酒をおいしく飲むなんて久々ですから!
玲斗が一緒だとあまり飲んだ気にならないし、会社の飲み会はいつも控えめで、家に帰る時間ばかり気にしてしまって思う存分飲めません。

気がついたら終電ギリギリでちょっと焦ってしまいました。
玲斗だったらタクシーを使うのでしょうが、わたしは庶民です。ひとりでいてそんな贅沢なことはできませんから。

「は〜!なんか気持ちいい〜!」

家に帰ってくると一気に落ち着くのでしょう。身体がふわふわしてきました。
もう、今日はこのままベッドに倒れ込んで寝ちゃっても平気でしょう。
だって玲斗が帰ってくるのは明日・・・いえいえ日付が変わってしまったので今日の夜ですからね。
明日起きてシャワーを浴びて部屋の掃除をして・・・ご飯を作って待っていればバッチリですからね!
よし、計画はバッチリ!
では、おやすみなさーい。



って・・・
ちゃんとしめていなかったカーテンの隙間から差し込んでくる朝日で、目を覚ますと、隣にはいるはずのない旦那サマの姿が。

「えーー!!」

い、今何時でしょう?
わたしまた寝坊したのでしょうか?
急いで時計を握りしめると、時計の針は7時。
これだけ明るいのですから夜の7時ってことはありえません。
絶対に朝の7時です。

そうだ・・・これは夢なのでしょう。夢、夢!
とりあえず、もう一度寝てみましょう。
布団を被って10数えてみます。
そうすると、玲斗がイキナリ寝返りをうちます。

「ぎゃっ」

わたしはおそるおそる、玲斗を指でつついてみました。
玲斗は外人でもないのに、いつも上半身は裸で寝ています。
最初はドキドキして眠れなかったりしましたが、今ではようやく目に入っても顔を赤らめずにすむようになりました。

「玲斗・・・だよね?」

「千穂、うるさい」
「ぎゃぁ!!」
「だからなんなんだよ」
「な、な、な。夢なのにしゃべってるー!」
「は?お前バカか」

ば、バカって。
起きるなりそれは酷いです。
というよりも。これはどうやら夢ではなさそうです。

「な、なんで玲斗がいるのー?」
「いたら悪いのかよ」
「だってだって出張って」
「つーか帰ったのさっきだし、眠いんだよ!」

旦那サマお怒り気味です。
これ以上聞くのはまずいようなので、これまでの玲斗の状況を思い出しながら、わたしはひとりで勝手に妄想劇場に突入。
ハイ、出張に行き、仕事をこなす。思ったよりも早く仕事が終わり、暇になっちゃったーということで、観光しよう〜とかわたしのためにおみやげを買おう〜とかはまずありえない話で、そのまま飛行機に飛び乗って、帰ってきちゃいました〜と。
なるほど。
で、さっき帰ってきて、ベッドに潜り込んだわけですね。

もービックリです。
でも昨夜門限破ったことはばれていないようですね。ああよかったよかった。

「千穂、そこにいるなら膝かして」
「え?」
「膝枕して」
「ええ?も、もう起きるんだけど・・・」
「昨夜、何話したの?」
「え?世間話とかだよ?」
「・・・ふーん。それだけ?」

ど、どうしたのでしょう、いきなり。

「えーっと、恵美が彼氏と同棲解消したとか。そういうのいろいろ」
「へー。高校時代から付き合ってたとか言うやつら?」
「うん、そう。ビックリだよね」
「そうか?別に不思議じゃないだろ」
「・・・」

それは・・・いつかわたしたちもお別れするってことなのでしょうか。
玲斗は暗にそう伝えたいのでしょうか。

「で、千穂は結婚してるって言ったのか?」
「ええ、言ってない言ってない言ってません!」
「・・・ふーん」

だってだって言うなって言ったのは玲斗です!
まぁ、相手が誰か言わなければいい、なんて言われましたが。
結婚、なんて言ったら愛子にも恵美にもつっこまれまくって、逃げられなくなっちゃうに決まってます!絶対言えるわけありません!

「じゃ、わたし起きて朝食の準備・・・」
「おまえ、さっきの聞いてたか?」
「え?」
「膝枕しろって言ってんだろ」
「え・・でもぉ・・・」
「うるさい。昨夜は友人たちと楽しく過ごしたんだよな?門限破ったお仕置き。黙って従え」

えーーーー!!な、なんでばれてるの!?

「は、ハイ」

そうして起きる気満々だったわたしは大人しく膝枕をします。
玲斗には逆らえませんからね。
でもこれってなんだか太ももがくすぐったくて・・・むずむずしちゃうの、わたしだけでしょうかね。
気持ちよさそうに寝息をたてる玲斗、これがわたしの旦那サマ。
寝ているときは大人しくてかっこよくて見惚れてしまうんですけどね・・・。



でもでも実は、その後発見してしまうのです。
ダイニングテーブルの上にそっけなくおかれた、おそろいのマグカップ。
わたしがニューヨークのおみやげに頼んでいたものです。
だってほら、アメリカってかわいいマグカップたくさんあるでしょう?
玲斗は「あんな安っぽいもの買えるか!」なんてぶつくさ言っていたので全く期待していなかったのですが、おそろいですよおそろい!

玲斗がシャワーを浴びてから・・・ちょっと遅めの朝食を取るとき、コーヒーを淹れてさりげなく置いてみたんです。
もちろん無言で使ってましたけどね!

こんなことですが、なんだかちょっと嬉しくなってしまったわたしでした。


おわり


   



なにげないふたりの日常でした。


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