社長と副社長のマル秘会議 1




「なかなか難しいなぁ。秘書課の子が別に仕事ができないわけじゃないんだけどね。」
「私情を挟むなとは言えないからな。」

社長室に響く二つの声。
定例に行われている極秘会議だ。
社長秘書だった三井さんが出産を期に仕事を辞めてしまってから数ヶ月。社長秘書は1ヶ月ごとに入れ替わっている。
この事態をどうにかすべく、二人は頭を悩ませていた。


「そういえば、今月のデータ出てるんだっけ?」

社長は手元にある数枚の紙をペラペラめくった。

「ああ。今月もノーミス1位は田中柚葉だな。」
「すごいね、彼女。1年目なのに。」
「まあ、それほど大きな仕事はしてないが、1年目で1位は今までにはなかったな。しかも連続・・・。」

会社ではノーミスランキングというものを密かに作っている。
もちろん仕事によって多少の誤差はあるものの、各部署で個人のデータ入力や、仕事の内容のミスがどれほどあるかを調査するためだ。
もちろんランキングが下で、ミスの多い社員には直々に面接を行って仕事の適性を計ったりもする。人事異動の参考にもなったりするのでけっこう重要なものだ。
ゆえに一般社員には知られていないが、各部署の課長クラス以上は把握しており、仕事の分配にも影響している。


「仕事を覚えるのも早いし、かなり優秀らしい。」
「それ、彼女からの情報?」
「ああ。」
「自分の恋人までスパイさせてるみたいだね。」
「人聞き悪いな。紀美香が勝手にしゃべってるのを聞いただけだろ。」
「ならいいけどね。」


ぱさり、と社長は紙の束を放り投げるように置いた。

「まさか入社1年目の子を秘書にするわけにはいかないし、速人の優秀な秘書、かしてよ。」
「ダメ。あいつこそ俺の間諜みたいなもんだ。」
「ケチ。」
「それに社長秘書のような花形は女にしておいたほうがいいだろ。」
「それはそうだけどね。適任者がいないんだからしょうがないでしょ。」
「とりあえず田中柚葉を候補にしとけば?」
「秘書課の先輩をさしおいて入社一年目で?」
「まあ秘書課の女どもは黙ってないだろうな。多少調査した上で起用すればいい。春の人事を目標に、それまでは適当に秘書課から選んでおけば?」
「そうやってまた社員を犠牲にするようなことを・・・。」
「いつぞやの馬鹿な人事部長が選り好みで内定やった女たちがまだ残ってるだろ。良い機会じゃないか。」

「まあそうすることにしておくよ。」
一息ついて、社長はゆっくり答えた。
副社長の言っていることは間違ってはいない。
以前、人事部長だった男が自分の好みだけで女の子を数人入社させ、問題になったのは記憶に新しい。
もちろんその男はすでに会社を去っているが。

「もてる男が社長だと尚更大変だな。」
副社長は立ち上がってニヤリと笑う。
「人のこと言えるわけ?紀美香ちゃんの気苦労を察するよ。」
「は?俺の気苦労も労ってほしいな。あいつに近づく男どもを排除するという仕事もこなしてる。」
「ハイハイ、お疲れ様。」

社長はさっさと出て行け、とばかりに手を振った。
副社長は笑いながらじゃあね、と言って社長室を出て行った。







柚葉ちゃんが入社1年目の頃、イケメントップ2の間で交わされていた会話。
だいたい冬の頃です。
その後、柚葉ちゃんは春の人事ではなく、中途半端な時期に社長秘書に起用されるわけですね。










  



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