サクラの木


第5話 白い天使

(1)

 季節はあっという間に移り変わり、コートを着て学校に行き始めたと思うとすぐ終業式を迎えた。
 終業式のあとには恒例の表彰式もあって、河野くんの名前が呼ばれ、その後にわたしの名前も呼ばれた。
 次にこの壇上にあがるのは卒業式で、そのときにはこの高校生活も終わるんだな、とぼんやり考えながら階段をひとつひとつ踏みしめながら上った。
 隣には河野くんが立っていて、思えば、名前順からかわたしはいつも河野くんの隣に立っていたような気がする。いつかの自由研究の優秀者発表会のときもそうで、わたしより先に発表する河野くんの自由研究の内容があまりにも素晴らしいので、自分の研究がなんだか恥ずかしく感じたこともあった。
 いつもかなわない、憧れの人だけれど、それでも河野くんが隣に立っていることが当たり前で、どこかでホッとしていたところもある。いつも当たり前のように思っていたけれど、これはものすごく特別なことだ、と初めて思えた。
 少しだけ両手が震えて、わたしはぎゅっと力を込めて心を落ち着かせようと前を向いた。全校生徒が気だるそうに立っていて、早く終われといわんばかりの態度が伝わってくる。そうだよね、関係のない人たちにとってみればこんなのどうでもいいことだ。
 わたしはつぐみが立っているところを見下ろした。するとバッチリ目があって、軽く手を振ってくれた。つぐみはいつだってわたしのことを応援してくれた。この場所で堂々と立っていられるのもつぐみがいてくれたからだと思う。

 河野くんの次にわたしの名前が呼ばれた。
 校長先生の前に行くとき、戻ってくる河野くんとすれ違って、わたしに微笑んだ。わたしも軽く微笑み返して、前に立った。


 HRが終わると副賞をわたすからあとで取りに来いと山ちゃん先生に言われ、わたしと河野くんは職員室に出向いていた。
 もらえたのはいつものように図書カードと作品の載った冊子。

「沢井さん、図書カードたくさんたまってるんじゃない?」
「河野くんこそ」

 わたしなんかの比じゃないと思う。
 
「本って高いからなかなかありがたいけど、毎回毎回図書カードってのもつまらないよな」
「でもほら、いつかの文鎮よりはマシだよ」
「ああ、あったあった。書道のコンクールだっけ?どっかのお墨付きの文鎮。確かにあれよりはいいか」
「あれ、使ってる?」
「いや、どっかいった」
「わたしも、結局いつも使ってるのが一番使いやすいんだよね」
「そうそう」

 そんなことを話しながら廊下を歩いていると、昨夜から降り続いている雪が少し小降りになっているのが見えた。

「随分積もったね」
「この時期に勘弁してほしいよな」
「そうだよね。受験生にとってはあまりうれしくないよね」

 気をつけて歩かないと転んでしまっては大変。あえてその言葉は口にはしないけれど。
 でも、わたしは雪の日は嫌いじゃない。
 身体の心から冷え込む寒さの中で、ひらひらと舞い降りてくる雪は小さな温もりを運んでくれるような気がする。
 
   



   



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