夏 君が微笑む   −第2部−



10



結婚式のあと、わずか2日間の新婚旅行を終えて、日本に帰ってくると私はもうへっとへとだった。
長時間フライトってけっこうキツイ!
しかもその・・・旅行中の夜はもちろん寝かせてもらえるはずもなく・・・寝かせてもらえないのに観光もして、それなのに尚弥さんてば全然疲れてないんだもん。


会社はいつもと変わりないから、眠いからって手を抜くこともできないし、何も事情を知らない柚葉ちゃんや律ちゃんには心配されちゃうし、私はもうこの際二人に告白してしまえたらどんなに楽だろうって考えた。
だけど、尚弥さんが会社にいるうちはあまり話さないほうがいいよね。
柚葉ちゃんや律ちゃんのことは信用してるし、ここの社長も事情を知ってるわけだから問題はなさそうだけど、尚弥さんは自分が海棠家の人間だってことできる限り知られたくないみたいだし。
家に帰ると、ご飯の準備をして、お風呂を沸かして、尚弥さんの帰りを待つ。
一緒に帰る日は外食にしちゃうことも多いけど、やっぱり手料理を、って思っちゃうのは、新婚だから、だよね。尚弥さんも喜んでくれるし。
今日は、仕事の帰りに実家に寄ってくるってことだったから、何かなって思ってたら、思いっきり疲れ果てた顔で帰ってきた尚弥さん。


「ど、どうかしたんですか?」
「いや、それが・・・兄貴と空音が今対立してんだよ」
「え!?な、なんでですか!?」
「空音が妊娠してたらしくて」
「ええええええええええええ!!!」
私の驚きに関係なく・・・尚弥さんはもう勘弁してくれって顔で、着替えもせずにダイニングの椅子に腰をかけると、ネクタイを緩めながら私の手料理をつまみ始めた。
私はハッと思い出した。
「赤ちゃん・・・もしかして結婚式のときわかってたんですかね。空音さんスタイル良いからいつも細身の服装なのに、あのときはゆったりめのワンピースだから珍しいなって思ったんです」
「オマエ、自分の挙式によくそこまでの余裕があったな」
「え、え、だ、だって」
自分のことばっかり考えてたら緊張しまくってどうにかなりそうだったんだもん〜。
「まぁ、そういうわけで、空音は大学も今年度で終わりだから卒業したい、と、でも兄貴は絶対ダメだ、とかなりの険悪ムード」
「ええーー」
「あいつら二人とも頑固だからな。いつもは兄貴が折れてるけど、今回ばっかりは折れない」
「はー、空音さんが心配なんですね、きっと」
「だろうな。本当は籠の中にでも閉じ込めておきたいんだから。兄貴は」
「でもそんなに思われて幸せですよねぇ、空音さん」
私は、このとき、まるで他人事のように思ってて、愛されてる空音さんがうらやましいとすら思ったのに、まさかわが身にも同じことがふりかかってくるなんて、このときはまだ予想すらしてなかった。
「まぁ、今度美絵も空音の説得にでも行ってやれよ」
「説得は無理ですけど、空音さんには会いたいから今度は一緒に連れて行ってください」
私の頭の中は、赤ちゃんが女の子だったら空音さんに似てきっと美人だろうな〜とか、赤ちゃんにはあの怖いお兄様も笑ったりするのかな〜なんていろんな妄想が始まっていた。

「オマエ、何ニヤニヤしてんだよ」
「え、だって〜!」
「ふーん、じゃぁ、俺たちも子づくりしようか」
「へ!?」
いつの間にか尚弥さんは私の後ろに立っていて私の身体を包み込むように抱きしめている。
「美絵がほしそーな顔してるからな」
「そ、そんな・・・。空音さんの赤ちゃんなら可愛いだろうなって、思っただけで・・・」
「美絵に似た子どもができたら子どもがふたりいるみたいだよな」
「え、えーー!?」
それってどういう意味ですか!
私が口をパクパクさせていると、尚弥さんは私の身体を180度回転させて向かい合う形にするとそのままソファの上に倒れ込んだ。
「美絵は欲しくないのか?」
「え、」
ほ、ほしくないわけないよぉ〜。
尚弥さんの顔が接近してきて、私はどう答えていいかわからなくなってしまう。
この展開、どう考えてもヤバイもん!
尚弥さん疲れてるんじゃないの!?おかず少しつまんだだけなんだけど!
「な、尚弥さん・・・お腹すいてないですか?」
「美絵を食べるから」
ぎょえっ!
な、なんてことを!
「美絵チャンはほしくないの?」
う、うわー。係長の顔ですよ!こんなの反則!
「ほ、ほしいに決まってます!」
「じゃあ決定。今夜はたくさん注ぎ込んであげるからね、美絵チャン?覚悟してて」
ぎゃ、ぎゃああああああ!!
尚弥さんの甘い囁きに・・・私はもう覚悟を決めるしかなかった。


私の妊娠が発覚したのはその数ヵ月後。
空音さんたちと同じ夫婦バトルが、今度は我が身におこることになる・・・。

そして、妊娠&結婚を柚葉ちゃんや律ちゃんに告白して、妊婦姿で盛大な結婚披露宴をおこなうことになるのはまだもう少し先のお話。



おわり



  






美絵と尚弥のお話、長々とお待たせしましてすみませんでした。
一応は完結です。
また近々番外編などで、ふたりの様子を描ければいいなぁと思います。

美絵の妊娠発覚時のお話は記念話でちょこっと書いてます→刻まれる魂



喜びます→






2010年 3月  蒼乃 昊



   



inserted by FC2 system