夏 君が微笑む   −第2部−






「な、尚弥さん。どこへ行くんですか」
「どこって、オマエ、部屋に決まってんだろ」
「え、もういいんですか?」
「いちおう重要な相手には挨拶したし、後は兄貴がうまくやるだろ」
「でも、部屋に戻って何するんですか?まだ帰っちゃだめなんですか?」
「帰るってどこに帰るんだよ」
「家に・・・」
「日帰りのつもりだったのかよ」
え!?
だって泊まりだなんてひとっことも聞いてないんですけど。
「お泊りセットなんて持ってきてないですよ〜」
「オマエ、ここをどこだと思ってんだよ。全部そろってるにきまってんだろ。しかも海棠グループのホテルだぞ・・・。家みたいなもんじゃねーか」
「そ、そっか・・・」
そうですよね。
「で、美絵チャンは何かしたいことある?」
「え?」
尚弥さんはいきなりイジワルそうな顔をして私の顔を覗き込んできた。これこれ、この顔、そしてこの話し方はマズイんです!
エレベーターにはふたりきりでのりこんで、激しく密着していて、逃げ場はない。
ど、ど、どうしよう〜!
そりゃあね、もう初めてでもないし?何度かそういう関係にもなってるし?
「別にいいよ?昼間から重なりあっても」
「かさなっ・・・」
いやああぁぁぁぁあぁ!!あからさまに口にしなくてもいいじゃないですか〜!!
ドキドキしてる上にさらにドキドキさせるようなことを言って楽しんでいる尚弥さんを恨めしく軽く睨みつけてみるけど、尚弥さんはちっとも気にしていない。
それどころか尚弥さんはいやらしい手つきで、私のドレスから除かせている肌に触れてきた。
「美絵、今日かわいいしね。こんなに肌を露出させてどうしたの?」
「な、尚弥さんっ」
エレベーターの壁に背中をおしつけられ、私の唇は思いっきりふさがれた。
「ん・・・」
尚弥さんのキスでどんどん力が抜けていく。
身体を支えられながら、私の唇は奪われたまま、エレベーターが到着するまで続けられた。
「なんだ。もう着いたのか」
「尚弥さん・・・」
「オマエ、そういういやらしい顔してるとしらねーぞ」
その言葉通り、部屋に入るなり、尚弥さんは私の身体を抱き上げて寝室へと直行した。
私は今夜泊まるというその部屋をまともに見ることもなく、広くてふわふわのベッドにおろされ、尚弥さんの早急な愛撫を受ける羽目になってしまった。
なんとなく予想していたとはいえ、まるで初めてのときみたいにドキドキしてしまって、きっと私の顔は真っ赤になっていたに違いない。
やっぱりこんなドレスを着て、こんな素敵なホテルだからかな。違う環境だと盛り上がるとかいうし・・・って私ってばなにいやらしいこと考えてんのよー!
尚弥さんがこんなことするからー!
「尚弥さん・・・待って・・」
「待つわけないだろ」
そんな意地悪な尚弥さんの声に、私は覚悟を決めた。


気づくと、もうすでに陽が傾きかけていて、窓から夕暮れ時の紅い光が差し込んできた。
う、うわ〜。なんかいつもより凄かったから・・・いつの間にかうとうとしちゃったんだ。
って私ってば何思いだしんてんのー!
「あれ?」
一人で悶えていると、尚弥さんの気配がないことに気づいて周りを見渡した。
ベッドルームにはいない。物音もしない。
しんと静まりかえった部屋を改めて見渡すと、この真新しい部屋がいかに凄いかが思い知らされる。
きっとこのベッドだってかなりの高級なものなんだろうな。壁紙もすごいし。うわ、天井には天使がいるよ、天使!尚弥さんとの行為に夢中で気づかなかった。
「なんかお姫様気分・・・」
私は尚弥さんを探すべくすぐ横においてあったローブを羽織ってベッドルームを出ると、そこには広い広いリビングルームが。
「何畳くらいあるんだろ」
そしてダイニングスペースにキッチンまである。
ホント、外国映画に出てくるお部屋みたい。
私はどこにいていいかわからずふらふらと探索していると、ガチャガチャと扉が開く音が聞こえてきた。
「尚弥さん、どこへ行ってたんですか?」
私とは違って尚弥さんはばっちりスーツを着ている。
「兄貴から呼び出された」
「そうだったんですか」
「そういや、空音が美絵と話したいって言ってたから、夕食はあっちの部屋で一緒に食べることになった」
「あ、はい。空音さんたちも同じような部屋に泊まるんですか?」
「あー、兄貴たちは客室とは別に夫婦専用のフロアがあるんだ。まぁ別荘みたいな感じだよな」
「はー!凄いですね」
こういうところに泊まるだけでも凄いことなのに、別荘代わりなんて!


「それよりオマエ、その格好で俺を待ってたのか?さっきあんなにしたのにまだ足りないのか。えっちになったよな、美絵も」
え?
尚弥さんの視線がわたしの身体に突き刺さるのを感じて、自分で見下ろしてみた。
う、ぎゃああああああ!!!
裸にローブ一枚!!
しかも胸元はだけすぎ!
「ち、ち、違うんです!!これは!」
「なにが違うんだよ。オマエから誘ったんだからな。今度は容赦しねーぞ」
容赦しないって、さっきは容赦してたってこと!?
あんなにすごかったのに!?
私の動揺とは裏腹に、尚弥さんは私のローブを簡単に脱がせていき、一糸まとわぬ姿にしてニヤニヤと笑っている。
「私っ・・・今起きたばっかりでっ・・・着るものがなかったからで・・そのっ」
「そんなのどうでもいい」
「どうでもよくないですっ。ほら、夕食一緒に食べるなら準備しなきゃ・・」
「まだ時間は十分あるだろ」
いやー!
もしかしてもう何を言っても無駄!?

そうして、今度はベッド並みに大きくてふっかふかのソファの上でみっちり尚弥さんに襲われることになってしまった。




   




   



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