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あたしは、しばらく夢中で話をした。
お母さんのこと、学校のこと、友人のこと、先生のこと。
まるで小さな子どもに戻ったかのように、とにかくひたすら話し続けた。
そんなあたしの話をじっと聞いていてくれたお父さん。
年齢よりもずっとずっと若くてかっこよくて、さすが面食いのお母さんが選んだ人だなぁって思ったくらい。
あまりに夢中になっていたので、その日の学園祭が終わって天野先生が迎えにくるまで、あたしはまったく気がつかなかった。
衣装もそのままだったので、思いっきり恥ずかしくなってしまったけれど、お父さんは、とても綺麗だよって言ってくれたので、それだけで嬉しい気持ちになれた。
あたしって単純かも。
お父さんは連絡先を教えてくれて、今度は改めて家に行っておばあちゃんとおじいちゃんにも挨拶するって言ってくれた。
不思議な気持ちだった。
これまで、どんなに会いたくても誰だかもわからないし、どんな人かもわからなかったのに。
一度会ってしまえばこんなに簡単なものなんだろうか?
いや、違う。
あたしもお父さんも、これがスタートラインなんだ。
まだ始まったばかり。
きっとこの先、あたしたちの空白の時間を埋めていくには、大変なことだってたくさんあるんだろう。
それでも。
あたしたちは動き始めることができた。
「美月?怒ってるのか?」
お父さんを見送った後、先生があたしの顔をのぞき込んだ。
「黙ってたなんて趣味悪い」
「ごめん。事前に話せば美月は動揺するだろ?」
「・・・」
突然でも動揺するよ。
なんて思ったけれど・・・確かに事前に聞かされていたら、あたしは直前になって怖くなって逃げていたかもしれない。
そんなあたしの性格をよくわかってるから・・・先生は。
「ね、先生」
「ん?」
「ありがとう。西尾先生にも伝えておいてね」
「あ、ああ」
「あたし、ものすごくドキドキしちゃった。お父さん、かっこいいね」
「そうか」
「妬ける?」
「・・・美月・・・あのな」
「あはは!」
先生は、大人だから妬いたりしないかな。
お父さんじゃなくても。あたしが男の子と話しても、告白されても・・・クールにさらっと流しちゃうのかな。
なんだか悔しいな。
「ほら、着替えて。家まで送ってくから」
「あ、そっか。もう今日の日程終わってるんだっけ」
「そうだよ。明日も早いんだろ?」
「そうだった!」
先生は先に行ってる、と扉へ向かって歩き出した。
今日はショーがあったからクラスのお手伝いは免除されてたけど、明日は売り子に燃えなければならない。
他のクラスもまわりたいしね。
本当は先生と一緒に見てまわれたらどんなに嬉しいかって思っちゃうけど。
「美月」
「え?」
イキナリ後ろから抱きしめられて思いっきりビックリした。
「この衣装、くやしいけど、すごくよく似合ってる」
「・・・」
先生の腕の中で、あたしはドキドキする気持ちを隠しきれない。
こんな突然に卑怯だよ。
「誰にも渡したくない」
「せ、せんせ・・・」
ど、ど、どうしちゃったの。
あたしは先生の腕の中から逃れようとするけれど、あまりにも力強くて抜け出せない。
「美月は、もう俺だけのものだから」
俺だけの・・・。
その言葉が嬉しくて、恥ずかしかった。
「うん」
背中に先生の温もりを感じて、あたしはこのままずっと先生の腕の中にいたい気持ちになってしまったけれど、先生はゆっくりと腕をほどいて、くるっと身体を回転させられた。
先生の顔がゆっくりと近づいて・・・あたしは瞳を閉じた。
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