春うらら 〜社長室のとある一日〜




パソコンのモニターを見つめながら仕事をしている姿は真剣そのもの。視線の先にいるのは真面目で優秀な秘書で可愛い恋人の柚葉ちゃん。
オフィスでバイトをした経験を持つという彼女は入社した頃からかなり優秀だと評判だった。
仕事のミスもほとんどなく、密かにデータを取っている社内ノーミス・ランキングでは毎月のように1位。
履歴書に書かれた明らかに就活の為に取りました、という資格は、簿記や秘書検定を始め、けっこうな数だ。そういうところも彼女らしい。
ぼーっと彼女の仕事ぶりを見つめていると、視線に気づいた柚葉ちゃんがふっと顔を向けてくる。
少し眉をつり上げて、「社長、仕事してください。」と、あのかわいい声で言われるのが妙に心地良い。
社内では徹底して上司と部下の態度を崩さない彼女。

「柚葉ちゃん、お茶飲みたいなー。」
「わかりました。淹れてきますからさっさと仕事してください。」
「はいはい。」

柚葉ちゃんはてきぱきとお茶を淹れてものの数分で持ってきてくれる。

「どうぞ。」
「ありがとう。」

すたすたと無言で自分の椅子に座る柚葉ちゃんを見守って、彼女の淹れてくれたお茶を口にする。

・・・。
なんだこれは。

「柚葉ちゃん・・・コレ、なんのお茶?」
「えーっと、なんとかブレンドのドクダミ茶って書いてありましたけど。」
「・・・な、なんでまたそんなものが・・。」
「えーっといつもの緑茶が切れてたんで、奥の方で眠ってたの開けてみました。」
「だ、大丈夫なの、それ。賞味期限とか。」
「お茶だから大丈夫なんじゃないですか?ドクダミ茶ですし。」

淡々と答える彼女。
柚葉ちゃんはしっかりしてる割に、そういうところが妙にいい加減だ。


「緑茶なら、昼休みにでも買ってきますよ。他に何か欲しいものありますか?」
「んー、そうだな、柚葉ちゃんがほしい。」
「・・・。」
眉を寄せながらも、柚葉ちゃんの顔が赤くなる。ああ、この反応があまりにも可愛らしい。
「社長、セクハラ発言やめてください。」
「・・・恋人同士なのに?」
「ここは会社です。」
そう言って下を向いてしまった彼女だけど、決して嫌な気持ちになっていないのを知っている。
知っていて、柚葉ちゃんの反応を見るために、わざと言ってるのはやっぱり確信犯だな。


午後には新しく購入された緑茶が目の前に出される。
普段はコーヒーだけど、たまに緑茶が飲みたくなる。それは柚葉ちゃんの淹れてくれるお茶がおいしいから。

相変わらず、柚葉ちゃんはそっけない態度で黙々と仕事をこなしているけれど、仕事が終われば「お疲れ様でした。」と可愛らしい笑顔を向けてくれるのが日課となっている。
その笑顔を見れば、どんなに忙しい日でも、疲れがいっきに吹き飛んでしまうことを彼女はわかっているのだろうか。


さあ、今日もその笑顔を見るためにしっかり仕事を終わらせよう。








おまけ↓


翌朝、再びあのなんとかブレンドのドクダミ茶が目の前に。
「柚葉ちゃん・・・コレ。」
「あ、だって捨てたらもったいないでしょう?毎日ちょっとずつ飲めばいいかと思って。健康にも良さそうですし。老廃物が排出されるみたいですよ?」

・・・。
柚葉ちゃん、これはちょっとしたイジメとしか思えないんだけど?



END








1万ヒットお礼です。
社長視点のお話でした。

料理は社長の方が上手だけど、お茶を淹れるのは柚葉ちゃんの方が上手いらしい・・・?


ありがとうございました!






      


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