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もうすぐ日付が変わろうとしている深夜。

軽くて暖かい羽毛布団の肌触りがとても心地良い。
素肌に触れるその感触を楽しみながら、うとうととまどろんでいるあたしの長くも短くもない髪を、社長は手でゆっくりと梳いていた。
まったりとしたこの時間がとても好き。
社長の手の動きがふと止まり、思い出したかのように口を開いた。

「そういえば、柚葉ちゃん。話ってなに?」
「・・・えー?」
すでに睡魔がふらふらと舞い降りてきているあたしは、曖昧に返事する。
「柚葉ちゃん!」
いきなり身体を揺すぶられ、なんですかー?と答えると、社長はほっとしたような顔を浮かべ、電話で言ってた話って何?と顔をのぞき込みながら聞いてきた。
布団の中では社長の肌が密着している。
なんか今更ながら恥ずかしい。

「話があるって言ってたでしょう?」
耳元で囁かれる吐息がなんだかくすぐったい。
「あー」
なんだっけ?
社長が帰ってきたら言おうと思ってたこと。
「えっと・・・ですね・・・」
「うん」
「えーっと」
なんだかいざ話そうとすると言いづらい。

「なに?」
言うのを渋っていると再びあたしの身体に手を滑らせる社長。
すみません、ちゃんと言います。
一応肌を傾けて逃げようとしてみる。無駄だけど。
「あの・・・」
「うん」

「一緒に、暮らすこと・・・前向きに検討しても、いいかなぁ・・・と」

「え・・・本当に?」
「思ってみたり・・・。って、んっ、んーー」

社長の顔がアップになった瞬間、再び唇が重なった。
不意打ち。
だけど、どこかで期待していた自分もいる。
その心地よさに身を任せて、目を閉じる。
静かな寝室に響き渡る音が妙にいやらしく感じた。

あーあ、やだな。完璧に社長のペースに引き込まれている気がする。
とりあえず、言うことは言った。
あたしはひそかな達成感と共にそのまま睡魔にひきこまれそうになる。
すると社長は耳元でつぶやいた。
「年末年始の休暇は不動産まわろうね」
「はあ?」
思わず身を起こしてしまう。
なんでこの人は、あたしを寝かせてくれないわけ!

「ほら、早いほうがいいし」
いや、早すぎだってば!
それ以前に年末年始に不動産開いてるの?!

「ああ、先に伊豆旅行も決行しないとね」
社長の発言に完全に目の冴えたあたしは、妙に機嫌の良い彼の腕の中で脱力した。

やっぱりこの人にはかなわない。




後日、結局あまり時間もなく、良い物件も見つからず、あたしは強引に社長宅マンションへ居候させてもらうことになった。社長は同棲だと言ってきかないが、あたしの中では居候なのだ。



そうして入社3年目の春は、桜の開花とともに新しい生活が始まることとなる。




END





後日談:もうすぐ春が・・・へ





   





あとがき


恋人編終了です〜!
おつきあいくださいましてありがとうございました!

しかし、結婚へと向かう含みを微妙に残してるので、結婚編も書きたいな、と思いつつ。
結婚編となるか婚約編となるか同棲編となるかはナゾですが。
しばらくは書ききれなかったものを番外編などで載せたいです。






ちょっとした裏話↓

「春うらら」は妊娠中、あまりにも暇で・・・かといってテレビつけたら暗いニュースしか流れてないし、
読書も飽きてきたし、いっちょ気分が明るくなるお話でも書こう・・・というわけで生まれました。
恋人編の途中まで書いて終わってたんですが、産後も思いのほか時間があり・・・(なんかよく寝る子なので)、ノートにいろいろ書いて遊んでたものが、4つの「春夏秋冬・・・」のお話としてできあがってきたわけです。
といっても冬は途中だし、秋は設定のみですが。
その他にもいろいろ書いてたので、また徐々に載せれたらいいな、と思います。

2008年 5月23日 蒼乃昊





      


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