冬の小鳥−聖夜のプロポーズ−





かなり緊張してる。
普段来ないような場所だから。

「紀美香ちゃん?」
「え?」
「いや、しかめっ面してるから・・・、大丈夫?」
「あ、ごめんなさい。なんだか緊張しちゃって。」
「緊張するような場所じゃないじゃん。」
「そうなんだけど。」
「あ、夜のこと想像して、とか?」
「ち、違います!!」
「あはは。紀美香ちゃんでもムキになるんだね。」

鏡に映る安蘇さんは楽しそうに笑った。
そう、私は来ることはない思っていなかった安蘇さんの働くお店に来ていた。
あの人に対抗する気持ちが全くなかったといえば嘘になる。
けれど、少しでも速人さんに釣り合う女性になりたかった。
今更、美人にはなれないけれど、私なりに努力したかった。そのために安蘇さんの好意を受け入れてもいいのかな、って思ったら、勢いでそのまま電話で予約をいれてしまった。24日の午後に。
会社を早退までしちゃったんだから。
今までの私だったら考えられない行動だ。
もちろん外側だけ見繕っても意味はないから、私自身が内面磨きをすることも大切なんだけど。

好きな人のために綺麗になりたい。
そんな人並みの恋心を、私自身ももっていたみたい。

安蘇さんは、さすが、というかプロだけあって仕事ぶりは凄かった。普段のへらへらしている顔とはまるで違う真剣な表情は、本当に素敵で、きっとこの顔に夢中になってしまう女性も多いのだろうと思った。
どうして男性は仕事となるとかっこよくなるのかな。

「紀美香ちゃんらしさをなくさないように、清楚に、でもちょっとセクシーな感じで仕上げてみました。」
「あの、ありがとうございます。」

鏡に映る、自分ではない自分に驚きながら、安蘇さんに頭を下げる。
メイクで女性はいかようにも変われるっていうけれど、本当に変わるんだな、って改めて思わされた。

「速人がどんな顔するか、写メで送ってきてよ。」
「え?」
「はは、冗談冗談。」
「安蘇さん、あの本当にお金・・。」
「ああ、いいんだよ。俺、今日サンタだしね。」

茶目っ気に笑う安蘇さんに、私はもう一度頭を下げた。

「紀美香ちゃん、もっと自信もっていいと思うよ。速人が選んだ女性なんだから。」

安蘇さんは私を見送りながらそう言ってくれた。
速人さんてホント素敵な友達ばかりだなぁって、私は心が温かくなって速人さんとの待ち合わせ場所へ急いだ。

少し早めに着いて、私はデパートの中の化粧室へ入った。
改めて見る自分はものすごく恥ずかしくて、本当は速人さんに早く見てもらいたいのに、どこかでなんでこんなことをしてしまったんだろうという気持ちになったりもする。

洋服、変じゃないよね。
仕事が終わってディナー用に着替えたけれど、どこか落ち着かない。
普段着慣れていないサテンのワンピース。
何度も何度も変なところがないか確認して、時計を確認した。



   




   



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