冬の小鳥−聖夜のプロポーズ−





「あれ、随分早かったんだね。速人ってそんなに・・・うわっ・・・なにするんだよ!」

速人さんは安蘇さんがしゃべり終えるのを待つまでもなくイキナリ頭をガツッと軽く殴った。

「で、オマエは何しにきたんだよ。」
「だから引越しのお祝いに・・・。」
「正直に言え。」
「今夜だけ泊めて。」

語尾にハートマークがつきそうな勢いで、安蘇さんは速人さんに言った。

「彼女と同棲してたんじゃないのか。」
「追い出されちゃったんだよ。浮気相手の女の子がどっかで住所調べてストーカーされちゃって・・・。」
「自業自得じゃねーか。土下座でもして入れてもらえ。」
「無理だよ。向こうもなんか新しい彼氏作ってたから。」
「お互い様だな。」
「だから、お願い!泊めて!速人は大事な友達がこの極寒で凍え死んでもいいっていうの?!」
「別にかまわない。」
「うわー!!」

うーん、やっぱり速人さんのお友達ってみんな面白い。

「あの・・・お茶です。どうぞ。」
「あ、ありがとう!速人にはもったいないくらいのいい子だね、紀美香ちゃんは。」
「はー。」

速人さんは大きくため息をつく。
きっとお仕事で疲れているのもあるんだろうな、と思った。

「速人さん、お風呂入ってるよ?」
「ああ・・・、ありがとう。安蘇、オマエ入ってこい。」
「え!いいの!さすが速人!ハルには追い出されちゃったのに・・・。」

ハル・・・?
私が首をかしげていると、速人さんが春樹のことだよ、とつぶやいた。

「紀美香、こいつソファに寝かせてやってもいいか?」
「ええ。困ってるみたいだし。でもソファでいいの?」
「他にどこかあるか?」

確かに私の部屋ってのも・・・マズイし。
私が自分の部屋で寝て、速人さんのベッドでふたり・・・なんてのも、きっと速人さんは嫌な顔するよね。

「紀美香、タオルとか出してやってもらっていい?」
「あ、うん。」

私は阿蘇さんを浴室に案内して、タオルを渡した。
着替えはどうやらもってきているようだし。

「紀美香ちゃんありがとね。」

あまりに美しい笑顔でそう言われ、少しだけドキドキしてしまった。
リビングに戻ると、速人さんはさっきまで安蘇さんが座っていたソファでうとうとしていた。
やっぱり疲れていたんだ。

「速人さん、もう寝ますか?」
「あー・・・紀美香を抱き枕にして寝たい。」
「もー、なに言ってるの。」

この人はどうしてこんなに恥ずかしいセリフをさらっと言えるんだろう。
こういうこと言うから、女の人にもてるんだわ、きっと。

安蘇さんが浴室から出てくると、速人さんはダルそうな身体を起こして、私をひっぱって一緒に入ると言い出した。
一応拒否してみたけれど、やっぱりダメで、一緒に入ることになってしまった。
ふたりだけならいいけれど、やっぱりこうやって誰かがいるとどうしても恥ずかしい。別に裸を見られるとか、そういうわけではないけれど、ふたりで入ってるって思われることが恥ずかしい。
こういう風に思うのって私だけなのかな。

お風呂から上がると、速人さんは私を寝室に押し込んで、予備の毛布を持ってリビングに出ていった。
しばらくして戻ってくると、速人さんはさっきの発言どおり、私を抱き枕にしてすぐに寝入ってしまった。
身動きの取れない私も、そのまま寝てしまって・・・気づいたら朝になっていたのは言うまでもなかった。



   




   



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