秋風そよぐ






どう考えてもリクトとは、付き合えない。

という結論に至ったはずなのに、なんでわたしはこんなところにいるのよー!!
シングルベッドに大人二人は狭すぎる。
この密着は、仕方がないにしても。
どーしてわたしは、裸でリクトの隣で目覚めるのだ!?
ありえない。
自分の行動がありえない。

わたしは軽く身体を起こす。
頭が痛い。ガンガンする。ああ、二日酔い・・・。

酔った勢いで・・・大学時代、男友達とそうなったことがある。でもあれは大きく反省した。まあ、大学時代はちょっとはじけてしまっていたので、若さの勢いということでとりあえず、もう二度とあんなことはしないと誓ったのに。
このざまはなんだ。
反省がちっとも生かされてない。

「律子・・・さん?」

隣でお目覚めらしい、リクトが可愛らしい表情を向けてくる。

う、眩しい。眩しすぎる。
コイツ、顔だけはいいんだわ。わたし好みだし。
あー、そうよ、この顔がいけないんだ。わたし好みに成長したこの顔が。
この顔で誘惑されたら誰だって堕ちるに違いない。

結局終電を逃したわたしはホテルに泊まると頑張ったが、自分の住むマンションが近いから、と強引にタクシーに乗せられ、リクトの部屋までやってきてしまった。
そして二人で飲み直して・・・。
そこまでは良かったのよ。そこまでは。
そう、この顔で、リクトはこんなことを言ったのだ。

「僕、海人より上手い自信あるよ。試してみません?」

シラフのわたしなら絶対はねのけていたに違いないのに。
酔っぱらっていたものだからしょうがない。
「あら、すごい自信。受けてたとーじゃないの。」
なんてことを言ったような・・・気がする。
馬鹿だ。
ああ、わたしはなんて馬鹿なの。

頭を抱えていると、白くて美しい、それでいて細すぎることもない裸体をさらしたリクトが身体を起こす。
だから、その顔も身体も犯罪だって。

「大丈夫ですか?薬、飲みます?」
「もらえると・・・ありがたい、かも。」
「わかりました。すぐに持ってきますね。」
わたしと違ってなぜかスッキリした顔のリクトはベッドから抜け出すと、下着だけ身につけるとキッチンの方へと向かった。キッチン、といってもワンルームマンションではひと間続きになっているから丸見えだ。
リクトだって相当飲んだはずなのに。
そうよ、新人だからってかなり飲まされていただろうし、その後もわたしに付き合って飲んでたのに、この違いはなに?
わたしがお酒弱くなった?
もしや、年の違いなのか?

一人自問自答しながら唸っていると、リクトが水と薬を持ってきてくれた。
「あ、ありがと。」

薬を飲み終えると、やはり後悔だらけ。
これからどうする、わたし。
「ねえリクト・・・わたし。」
「酔ってたからなかったことにして、ってのは受け付けませんよ。」
げ。見透かされてる。
「で、でもね?」
「あれだけ僕の下で喘いで・・・」
「ぎゃああああああ、その先を言うな!」
「じゃあ、僕のこと真剣に考えてくれますよね?」
「・・・考える・・・だけならね。」

はあ・・・。
なんかスッゴイ疲れる。



その後、どこかへでかけましょう、というリクトの誘いを思いっきり断って、さっさと自宅まで戻って自分のベッドに倒れ込んだ。
後悔の嵐。大嵐。
よし、とりあえずシャワーでも浴びよう。スッキリしよう。


シャワーを浴びて、冷蔵庫からペットボトルの水を一気飲みする。
ああ、そういえば前に付き合ってた男に、この姿を見られてだらしない、なんて言われた気がする。んなこと言われたって仕方ない。
イチイチ男のために可愛い女を演じられますかっての。金持ちのイケメンなら演技する気もおきるけどさ。
テーブルに置いていた、広告チラシの束を手にとった。
とりあえず鷲掴みにして持ち帰り、テーブルの上に散らかしていたんだった。
まったく一人暮らしの家に来るのは光熱費関係の請求書か、マンション広告かエロいチラシ。エコだ節約だと言われてるけど、これこそ無駄な気がする。
とりあえず片っ端からゴミ箱に放り投げて行くと、一枚の封筒。

実家からだった。
あー、またお見合い写真?かと思ったけど、それにしては薄っぺらいし、小さい。
なんだなんだ、と思い開けてみると、そこには一枚のハガキが入っていた。


”同窓会のご案内”


東京の住所が分からず、実家に送られたようだった。
高校の同窓会通知。
日付は8月半ば。
働いている人が実家に帰ってくるのはだいたいお盆だから、そのあたりをねらったのだろう。
田舎だからなー。
田舎はお盆には帰ってこいとうるさく言われるので、結婚して遠くに嫁いでない限りはみんな戻るだろう。
わたしだって毎年休みの度に帰らされている。そしてあの田舎独特の賑やかな飲み会になるのだ。

同窓会、か。

実家から高校は離れていたし、卒業後は東京に上京したため、高校時代の友人たちとはほとんど音信不通になっている。
会いたくないわけではないけれど、高校時代の同窓会ならきっとあの男も来るだろう。
榎原海人。
元彼も。
あの男は今、実家暮らしだ。結婚した奥さんと子どもと一緒に。
今更もう関係ないことだけど、なんとなく会うのは気まずい。

いや、本当は気まずいのではなく、見たくないのだ。
結婚して子どもができて、幸せなアイツの姿を。

わたしは見たくないのだ。

思いがあるわけでもない。もう好きでもなんでもない。
ただ、アイツはわたしの初めての彼氏だった。
なにもかもが初めての相手で、別れは最悪だったけれど、付き合っている間は幸せだった。
それはやっぱり事実だから。
高校時代を思い出せば必ず、名前が出てくる、忘れたくても忘れられない、そんな男だ。

あの後、いろんな男と付き合ったけれど、結局長続きはしなかった。
心のどこかで、海人と比べていたのかもしれない。
初めての相手なければ忘れていただろう男なのに。
大学時代はもしかすると、いつかまた再び会って、復縁できるんじゃないかと、心のどこかで思っていたのかもしれない。
けれど、そんな思いとは裏腹に、海人の結婚話を聞いた。
もう、終わっていたのだ。

なにもかも。

だから、わたしも次へ進もうと思った。
海人よりも、頭がよくてかっこよくて、お金持ちの、そんな完璧な男を見つけて、幸せになってやるのだと、心に決めて。





   




   



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